クリーンヒット ⚾ フィクション
『クローバー』
ナ・ヘリム 著
キム・キョンスク 訳
講談社 刊
2025年11月 発行
1980円(税込)
256ページ
対象:中学生以上

少年は出会う――黒猫の姿をした悪魔と。

中学2年生のジョンインは父はなく、幼い頃に母を事故で亡くし、今は古紙回収をして細々と日々の暮らしをたてる祖母と二人で暮らしています。生活のため放課後に週3回、近くのハンバーガー店でアルバイトをしているジョンインは、お金が無くて修学旅行にも行けません。学校ではなるべく人目につかないように、休み時間は裏庭のゴミ捨て場で一人過ごしています。そんなある日、彼はゴミ捨て場で黒猫と出会いますが、その正体は猫に身をやつした悪魔ヘレルで、1週間を彼と共に過ごすことになるのです。悪魔はいったい、少年に何を求めてやってきたのでしょうか。

貧しいがゆえに様々なことで我慢を強いられているジョンインの人生には、不安と不満がつきまとっています。悪魔はそのにおいを嗅ぎつけてやってきたのかもしれません。しかし、苦い諦めとゆらぎの中にいるジョンインですが、物語の中に描かれる彼の性格は不思議なほどすがすがしさを感じさせます。それは、彼の周りにいる大人たちが順風ではない己の人生を決して恨むことなく淡々と生きており、さりげない優しさと誠実さをもってジョンインに接していることと無関係ではないでしょう。ジョンインの集めた段ボールを引き取ってくれる古物商の社長(パク・コーチ)は、いつもわずかながら多めに代金を払ってくれますし、タイヤの壊れたリヤカーを引いて一日中古紙を集めて回る祖母も、「ぼくがいなかったら、おばあちゃんはもっと幸せだったのかな」というジョンインのつぶやきに、「おまえがいなくちゃ」と答えてくれます。絶望して、自分をこんなひどい目に合わせる世の中に怒りを燃やしてもおかしくはないジョンインが、物事を考える時の基準に“良心”を据えていると感じられるのは、これらの大人の存在が大きいのだと思います。そして、特待生で生徒会長も務める模範生のジェアと一緒に学校の裏庭に小さな花壇を作ることになったジョンインは、お金持ちで一見恵まれているような彼女もつらさを抱えていることを知るのです。

古今東西の格言や名言をちりばめる悪魔のセリフとジョンインの会話は、一見すると軽口のようです。しかし様々な甘言を用い、一方で現実社会の冷たさや厳しさを見せて、人の心の中にある欲望を肥大させ、それに従わせようとする悪魔の行為は恐ろしいものです。ジョンインが悪魔の手を取ってしまったら…と不安を感じつつ辿り着く結末は、「人は人を信じることによって救われる」という希望を読者に与えてくれます。「もしも」と想像することを促す悪魔に対し、「度が過ぎた想像は病気。「もしも」は人生をダメにする呪文だ」という祖母の言葉は、地に足のついた人生の先輩としての重みに満ちています。ジョンインの生きる未来は楽しいことばかりではないかもしれませんが、彼はきっと黒い誘惑に惑わされることなく生きていけるに違いありません。(か)

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