クリーンヒット ⚾ フィクション
『ノーサンガー・アビー』
ジェーン・オースティン 著
唐戸信嘉 訳
光文社(古典新訳文庫) 刊
2025年12月 発行
1540円(税込)
435ページ
対象:高校生以上

妄想と現実の間で揺れる読書女子の初恋愛。

イギリス南部の小さな村の牧師の娘で10人兄弟の長女であるキャサリン・モーランドは、ゴシック小説に夢中の17歳。ある時、村の地主アレン氏がバースに静養に行くことになり、子どものいない夫妻はお気に入りのキャサリンを連れて行くことにしました。社交好きなアレン夫人に連れられて行った舞踏会で、彼女は若い紳士と出会い好意を寄せるようになります。明朗快活でユーモアのあるヘンリー・ティルニーは、大方の男性のように流行りのゴシック小説を馬鹿にしたりせず、キャサリンとも話が合って彼女を喜ばせます。やがてヘンリーの妹エリナとも親しくなったキャサリンは、兄妹の住まいであるノーサンガー・アビーに招待されました。小説さながらの古い邸宅(アビー=僧院)と聞いて、キャサリンの期待は否が応でも膨らみます。しかし、その激しい妄想がとんでもない行動につながって……。

ゴシック小説の世界にのめりこんでいるキャサリンが、現実と小説の境目が見えなくなってしまい、冷静に考えればありえないことを勝手に想像して恐怖に怯えたり怒りを感じたりする様子は、一歩引いた読者の目には滑稽に映ります。作者はそのようなヒロインの行動や思考を通して、当時流行していたゴシック小説を揶揄しているようです。また、容姿や性格に特筆すべきところのないキャサリンのことは、その単純さや素朴さを手放しに良しとせず、時に厳しい批判を浴びせています。キャサリンの周囲に登場する地位や財産に目の色を変える俗物たちの存在も含めて、オースティンの人間観察眼は非常に鋭く、皮肉やユーモアが込められた一級の結婚物語になっています。時代を感じさせる部分はあるものの、描かれた人間の愚かさ、狡さ、誠実さなどが普遍的であるからこそ、200年以上前の作品がこのように現代人の心にも響くのでしょう。

オースティンの作品としては「おそらくもっとも地味」と評される本書ですが、古典文学の愛読者だけでなく、これから社会に出て様々な人間と交わるであろう若い人たちにも手にしてもらいたいと思います。そして、どんな感想を持つのか、ぜひ聞いてみたいところです。(か)

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