クリーンヒット⚾ ノンフィクション
『戦争と平和の船、ナッチャン』
半田滋 著
講談社 刊
2022年4月 発行
定価1540円(税込)
178ページ
対象:小学校高学年から

ナッチャンの未来を決めるのは、私たちです!

青森と函館を1時間45分で結ぶ世界最大の高速フェリーとして2008年に就航したナッチャンワールド。船の壁面は当時7歳の女の子が描いたオットセイやタコ、人間の子どもや恐竜・宇宙人など、様々な生き物たちがパレードをする楽しいイラストで飾られていました。ところが、人々の笑顔を運ぶ観光フェリーとして活躍するはずだったナッチャンワールドは、就航からわずか4カ月後に燃料費の高騰と利用客の減少によって会社がフェリー事業から撤退することになり、姿はそのままに自衛隊に貸し出されることになったのです。ナッチャンワールドは2011年の東日本大震災の時にも北海道から東北へ、救援活動に向かう陸上自衛隊の隊員や支援物資を運ぶ仕事をしましたが、2011年の夏から秋にかけて行われた改造によってさらに戦車や装甲車などを運ぶこと(=緊急時に活用することが前提)となりました。

「長年にわたって防衛省の取材をしてきたジャーナリストが、実在する船に命を吹きこんだ一風変わったノンフィクション」と聞いて興味をもち手に取りましたが、ナッチャンワールド(船)自身が自分の運命を語るという書き方に、どこかすっきりとしないモヤモヤしたものが残りました。あえてナッチャンを擬人化することで、作者の伝えたいことが何なのか、よくわからなくなっているような気がしたのです。ところが、読み終わってからもずっとナッチャンのことを考え続けているうちに、「もしかしたら、私がこうしてナッチャンの(人生ならぬ)船生について考えることが、作者が読者に期待したことなのかもしれない」と思うようになりました。

観光船として作られたナッチャンが仕事を終えた後、病院船に転用するという案もあったそうですが、莫大な維持費用がかかることを理由にその計画は採用されませんでした。そして、民間の船であるにもかかわらず改修を経て、演習場へ戦車を運ぶなど実戦に備えた訓練に参加するという役割を担わされました。ナッチャンを平和の船として使うのか、それとも戦争の船として使うのか――それは私たちがこの国の未来をどう考え、何を選び取るかにかかっているのではないでしょうか。「日本をめぐる安全保障の状況が大きく変化している」と言われ、平和と戦争の境目にあるような時代だからこそ、戦争をしないためにはどうすればいいのかをぎりぎりまで知恵を絞って考え話し合うべきなのです。私はナッチャンを戦争の船にはしたくない、そう思います。 (か)

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