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『国境って何だろう? 14歳からの「移民」「難民」入門』
内藤正典 著
河出書房新社 刊
2025年6月 発行
1694円(税込)
252ページ
対象:中学生以上

どこで生きるかは、他人事ではないから

皆さんは移民や難民と聞いて、どんな人のことを想像しますか? 自分の意志であっても、また望まなくても、今、生まれた国を出て移動をする人の数が世界中で激増しています。原因は戦争や迫害、または気候変動など様々ですが、命の危険や苦しみのないところで安心して暮らしたいと願うのは人として当たり前のことです。しかし、この大規模な人々の移動によって多くの問題と新たな軋轢・排除が生まれつつあるのも、日々のニュースを見ていて実感するところでしょう。この本は移民・難民の問題を自分ゴトとするために、「もしかしたら、将来自分もこの国を出ていくことがあるかもしれない」という視点に立って世の中を見直すきっかけを与えてくれます。

著者は現代イスラム研究が専門で、若い頃シリアへ留学し、トルコで暮らした経験を持っています。それらの国々での学びによって与えられた視座からは、いかに私たちが日ごろ欧米の価値基準を圧倒的な善として物事を見ているか、その危うさにも気づかされます。現在紛争が起こっている中東やアフリカは、過去の帝国主義時代に欧米列強が引いた国境線が争いの理由になっている場合が多く、問題の根源がどこにあるのか歴史を紐解いていく必要があります。今起こっていることだけを見ていても、問題を正しく理解することはできないからです。

本書は世界と日本が直面している移民・難民問題の現状と、各国の対策について触れることで、読者自身の今の立ち位置(その物事をどう考えているか)を突き付けます。他人事であれば正論も言えるけれど、もし自分の国に難民が押し寄せてきたら? 逆に自分が難民となってどこかの国に助けを求めなければならなくなったら? 「もし自分が…」と角度を変えて考えてみることで、自分の中の矛盾や不正義に気づくのです。その痛みに耐えながら、人としてのあるべき姿を模索していくことがいま、一人一人に求められているのではないでしょうか。不安定な世界の中で生き延びるために自分を支えてくれるものは何か――移民・難民について考えることは、これから先の自分の人生について考えることでもあったことをこの本は教えてくれます。(か)

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