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『あなたに語る日本文学史』
大岡信 著
KADOKAWA 刊
2023年8月25日 発行
定価1815円(税込)
589ページ
対象:高校生から

私たちの言葉はすべて「歌」から始まった~次世代のための日本文学講座

詩人による初心者向けの古典の入門書です。著者は「日本文学の基本は詩歌」と言い切っており、その視点で終始語った1冊。
もともと他社からずいぶん前に「若い人たちへの日本文学の手引きになる本を」との依頼によって出版されたものです。語り口は平易でとっても読みやすい文章です!
“Ⅰ政治の敗者はアンソロジーに生きるー「万葉集」”、“Ⅱ平安文化の表と裏ー「古今和歌集」”、“Ⅲ詩歌の歴史は編纂者の歴史ー「古今和歌六帖」”、“Ⅳ奇想の天才源順ー「伊勢物語」と「大和物語」”、“Ⅴ女たちの中世ー建礼門院右京大夫と後深草院二条”、“Ⅵ男たちの中世ー俊成/西行/定家”、“Ⅶ歌謡の本質的な面白さー「梁塵秘抄」”、“Ⅷ風俗の万華鏡ー「閑吟集」から「唱歌」「童謡」まで”、“Ⅸ良基も芭蕉もパスもー連歌/連句/レンガ”、“Ⅹ「写生」は近代文学のかなめー子規の道・紅葉の道”の章立てです。

いろいろと胸に響く箇所は多数あるのですが数点に絞ると、まずは「まえがき」の文章。「文学史に必要なのは、知識の羅列ではなく、面白いなあ、と読者に思ってもらうことが第一と思うから」と言葉です。著者が本当に面白いと思ったことを語っていることがよく伝わってきます。
それから個人的に強烈に「!」だったことは、高校3年の古文の時間に出会った歌に再会できたこと!
教科書に掲載されていた歌で気に入ったのだけど、文言は全く覚えておらずモヤモヤしていたのでした。歌の大意だけは覚えていて、それが本書を読んでいたら偶然載っていたのです!! それは「浅香山影さへ見ゆる山の井の浅くは人を思ふものかは」という歌。この歌に出会えただけでめっけもんです(笑)。すごく嬉しい。こんなに嬉しいことってあるのかってくらいです。
それから歌の歴史を語るなかで、歌謡について語っていますが、この部分は荻原規子さんの『風神秘抄』(徳間書店)の世界にも通ずるな、と思って読みました。『風神秘抄』が好きな方に本書をすすめたい! きっと何か感じる部分があるはずです。

著者の詩歌への熱い情熱を感じます。知識量も半端ないけど、その膨大な知識の交通整理をして初心者に伝える姿勢が素晴らしい。高校の古文の副読本にしてもいいくらいって思いました。「万葉集」とか学ぶ前に本書を読んだら、理解のしかたが変わるんじゃないかな。少なくとも先生には本書の存在を知ってほしいなあ。
改めて著者、大岡信という人に敬意を持ちました。 (す)

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