ベスト👍 絵本
『さくらのふね』
きくちちき 作・絵
小峰書店
2023年2月 発行
定価1870円(税込)
32ページ
対象:幼児から

いきものたちがみんなで はるのよろこびをうたいます 

桜の風が、小さな山の上のてんとうむしに春の訪れを知らせました。川に浮かんだ花びらに乗ったてんとうむしは、川を下りながら森の草花や鳥、虫、生き物たちに春を知らせてまわります。

春が来てうきうきと心が華やぐのは人だけではないようです。厳しい冬を乗り越えた生きものたちにとって、春の訪れほど嬉しいものはないのでしょう。かたくりやにりんそうの花が咲き、若く青いもみじの葉が萌え出る春の野山を、きくちちきさんは美しく丁寧に描いており、とりわけ最後に虫たちが飛びながら見下ろす春の山の淡い色彩の美しさは格別です。手のひらに乗るような小さな虫にぐっと近づいたかと思うと、次の場面ではさっと俯瞰して見せる――視点は大胆に動いていきますが、全体に旅する虫たちを見守る作者の温かな視線が感じられ、何とも言えない幸せな気持ちで満たされます。

説明的な絵や物語が多い中で、読者である子どもの感受性を信頼した本書は、造本の美しさとも相まって「絵本の目指すところ」の一つの姿を示しているように思われました。(か)

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