【たくさんのふしぎ40th】🤔(2003年4月号)
『黒部の谷のトロッコ電車』
横溝英一 文・絵
福音館書店 刊
2015年3月5日 発行
1430円(税込)
40ページ

トロッコ電車に乗りたくなる!

黒部峡谷鉄道のトロッコ電車を知っていますか。また、乗車したことがある方は、いらっしゃいますか?
トロッコ電車は、遊園地のミニ鉄道みたいな小さな列車で、客車は、トロッコに座席と屋根をつけただけのような形をしています。大人が立つと天井に頭がつかえそうで、座席も1車輛に30人ぶんくらいしかありませんが、黒部川を見おろす高いがけの上を、急なカーブをくりかえしながらすすみます。
トンネルの中は、ひんやりとして寒く、トンネルを通りぬけるときには「わあー、すずしい!」と、みんなはいっせいに叫ぶといいます。夏は嬉しいですね。
トロッコ電車は13輌の客車を連結していて、大型バスで例えると、10台ぶんくらいの乗客を乗せていることになるそう。見た目の小ささからは想像できないことで、驚きました。

1年のうちでトロッコ電車がいちばん忙しくなるのは、夏休みと秋の紅葉のころ。秋の黒部峡谷は、谷じゅうに紅葉が広がり、見晴らしのよい鉄橋の上では、紅葉がゆっくりと見られるように、電車のスピードをおとして走ってくれるそうです。

黒部峡谷は、飛騨山脈の北部、立山連峰と白馬連峰とのあいだのふかい大渓谷のことで、この谷のあたりは、むかしから森林保護のため人の立ち入りが厳しく禁止されていて、長いあいだ秘密につつまれた別世界でした。はげしい流れと切り立った両岸の絶壁は人を寄せつけなかったという過去がありながら、険しい谷の奥まで鉄道がつくられ、たくさんの人が行き来するようになった理由とは、何だったのでしょうか。完成するまでの経緯を深く知ると、胸がしめつけられるような思いがしますが、おどろくほどの努力と忍耐力で工夫をかさね、難工事を完成させた人たちがいたのだという事実に、心が動かされました。

作品を手がけたのは、『チンチンでんしゃのはしるまち』や『はしるはしるとっきゅうれっしゃ』で知られる、横溝英一さん。細やかでありながら、あたたかみのある絵には、どこか懐かしい思いがします。電車や乗り物が好きだという子どもたちには、特に興味深い内容でしょうし、旅行や歴史が好きな大人の手にも届いてほしい作品です。秋が深まる頃、紅葉を見にトロッコ電車に乗る旅に行かれてはいかがですか。その前に、トロッコ電車の歴史を知ってから行くと、なおのこと心に残る時間を過ごせることでしょう。(み)

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