クリーンヒット⚾ フィクション
『いつものところで ワタシゴト 14歳のひろしま・3』
中澤晶子 作
ささめやゆき 絵
汐文社 刊
2023年7月 発行
定価1760円(税込)
168ページ
対象:小学校高学年から

ひろしまの修学旅行から「いつものところ」へ戻ってきた、ひとりひとりの物語

現代の中学生が70年以上前の戦争と原爆の惨禍について、様々な学習と体験や人とのつながりを通して学び、自分事として継承していくさまを描いた「ワタシゴト 三部作」の完結編。これまでは、修学旅行で訪れた広島を舞台に子どもたちの心の動きを丁寧に追ってきましたが、今回の作品では修学旅行そのものは描かれません。修学旅行の事前学習として、彼らと同じ14歳で被爆した山川さんの話を聞いた子どもたちの、修学旅行後の物語を複数の視点から語っていきます。

祖母、母ともに画家を家族に持つ明(めい)は、美術の土屋先生から先生自身が高校生の時に描いた原爆の絵(※)を見せられます。「絵を描くとはどういうことか」に迷い悩む明は、山川さんの話や資料館で見た市民の描いた原爆の絵から、自分なりの答えに近づいていくのです――。
山川さんとの出会いを中心に、手芸クラブの榎本みかるや合唱部の歌野つばさ、演劇部の大江戸蘭といった子どもたちが、自分なりのやり方で78年前と今を結び付けつつ戦争と向き合う姿は、戦争体験者が少なくなり伝えていくことが難しいと言われる中で、確かな希望を感じさせてくれます。

世界で初めて広島で核兵器が使われたことは重い事実ですが、それによって多くの市民(自分と同い年の子ども含めて)が犠牲となったことや、残された人々がその後も亡くなった人を思い続けて苦しむことなどは、どの戦争によってももたらされ得る悲劇です。子どもたちは山川さんの人生に触れたことで、それまで遠かった8月6日を意識するようになりました。私たちもこの物語を通してもう一度、国といった大きな主語ではなく一人一人の個人にとって「戦争」とは何かを身近に引き寄せて考えなければと思います。(か)

前作の『ワタシゴト』『あなたがいたところ』についても、過去のきになる新刊ピックアップでご紹介しました。→こちら

(※)土屋先生が「高校生の時に描いたの原爆の絵」という記述は、実際の広島市立基町高校創造表現コースの生徒たちのプロジェクトをもとにした設定と思われます。こちらの取り組みについては『平和のバトン』という書籍に詳しく紹介されていますので、ぜひお読みください。

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