クリーンヒット⚾ ノンフィクション
『だれよりも速く走る 義足の研究』~「みんなの研究」シリーズ
遠藤謙 著
偕成社 刊
2022年7月 発行
定価1650円(税込)
171ページ
対象:小学校高学年から

“障害”という言葉をなくしたい~義足エンジニアの挑戦!

著者は義足エンジニア。義足とは「足を失った人の足をおぎなうための道具」です。本書では、著者がなぜ義足エンジニアになったのかや、義足をとりまく現状などが綴られます。エンジニアになったきっかけのひとつが、後輩がひざの上を切断して義足ユーザーになったこととありました。この記述を読んで率直に感じたことは、義足って遠い誰かのことじゃないかもってこと。もしかすると事故や思いもよらない病気により自分自身、もしくは身近な誰かがそうなっても何の不思議もないってことです。

「ある日足を失った後輩」「ロボットにあこがれて」「人間の身体(からだ)と義足」「義足とオリンピック」「人類最速をめざして」「だれもが走れる社会に」の章立てのほか、4つのコラム、巻末にはブックガイドと盛りだくさんです。読み応えもたっぷりあります。

「義足をつくるということは、人間の身体の未来を想像すること」と著者は言います。また恩師であるアメリカの研究者の「世のなかには身体障害者はいない。技術のほうに障害があるだけだ」との言葉は目からうろこが落ちる思いになりました。著者もこの言葉は、自身の考え方の指針になっているとのこと。そしてこの研究者のエピソードが強烈でした。
若いころロッククライミングの将来有望なアスリートだったそうですが、山登りの際、事故のため両足のひざ下を切断、義足ユーザーになりました。そして医師からは「競技はもうできないだろう」と宣告をうけます。でも、クライミングのための足を開発、競技を続ける努力を重ね、ついには足があったときには登れなかった壁をクリアしたのだとか! 足がないことで体重が軽くなるメリットもあるとーーなんてポジティブ!

テクノロジーで障害が障害でなくなる事例として「メガネ」をあげて説明しています。メガネをかけている人をみて「障害がある」とは思わないでしょう? それと同じようにテクノロジーで「常識」を変えることができる、と著者は信じているのです。本当にいつか、そんな日がくるかもしれませんね。 (す)

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