クリーンヒット⚾ 昔話
『ねえねえ、きょうのおはなしは……世界の楽しいむかしばなし』
大塚勇三 再話・訳
PEIACO 絵
福音館書店 刊
2024年1月 発行
1210円(税込)
160ページ
対象:小学校中学年から

大塚勇三さんによる、読み聞かせにぴったりのよりすぐりの昔話集

絵本『スーホの白い馬』の再話などで知られる大塚勇三さん。その名前に心当たりがなくても、『長くつ下のピッピ』や『やかまし村の子どもたち』、『小さい魔女』『小さなスプーンおばさん』などの書名を聞けば「あぁ!その人なら知ってる!」と思う人も多いことでしょう。語学の達人でいらした大塚勇三さんは、世界の楽しい児童文学を数多く翻訳して日本の子どもたちに紹介してこられましたが、そのお仕事の中でも、昔話の再話には特に大きな情熱を注がれたように感じられます。絵本として紹介されたものもありますが、雑誌に掲載されただけでなくなってしまったり、単行本が品切れ重版未定になってしまったりと、今では読むことのできなくなったお話も数多くあります。そうした作品を20話集めて1冊の本にしたのが、この『ねえねえ、きょうのおはなしは……』です。

収録されたお話には有名なグリムの昔話の他、ロシアやノルウェーのお話があり、他にもウイグルやリトアニア、ギリシアなどのちょっと変わった国のお話が楽しめます。それぞれのお国柄によるお話の味わいの違いもおもしろいのですが、それにもまして大塚さんの日本語の言葉選びが絶妙です。怖い話やハラハラするもの、切ないお話にもどこか軽みがあって、読んでいると元気と笑いが出てきます。「長く語り継がれた昔話は、人々に生きる力を与える」と言われていますが、昔話を聞いて(読んで)心を動かすことは、深いところからまさに生きる力を湧き上がらせることに繋がることを実感します。

ひとつ残念に思うのは、この本の表紙―-かわいらしいイラストで飾られているのですが、私はこの本の中身とそぐわない気がしました。表紙は本の顔であり、それによって読者が手に取るか否かが左右されるので、出版社も色々と考えた上での決定だったとは想像されます。だからこそ、時代や読者に阿ずに作品の本質を見極めた装丁であることが、本を長く生きのびさせることに繋がるのではないかと考えます。(か)

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