クリーンヒット⚾ 『アーマのうそ』
キャロル・ライリー・ブリンク 作
谷口由美子 訳
堀川理万子 絵
文溪堂 刊
2022年9月 発行
定価1760円(税込)
206ページ
対象:小学校高学年から

思わずついてしまった「うそ」が、ひとり歩きをしてしまって……

パパが大おじさんの経営するデパートの立て直しにかかわることになり、ニューヨークから引っ越してきたアーマ。新しい学校に転校してきたばかりでまだ友だちのいないアーマは、その日学校帰りに声をかけてくれたジュディから何か特別なものを持っているかと聞かれて、つい「世界一大きな人形を持っている」とうそをついてしまいます。他愛のないうそでしたし、アーマとしてはジュディがすぐに忘れてしまうことを期待したのですが、アーマの思いとは反対に学校の一大イベント(収穫祭)でその人形を展示することになってしまうのです。何とか人形を用意しなければと全財産(14ドル23セント)を持って大おじさんのデパートへ行ったアーマは、偶然置きっぱなしにされていたマネキンの中に自分がついたうそとそっくりの人形をみつけて、思わず黙って持ち出してしまいました……。

大好きなママは仕事のためにニューヨークに残り、パパは毎日忙しく、大おばさんは耳が遠くて会話もとんちんかんになりがち。大きなお屋敷を管理する執事のディリンガムさん夫妻も、アーマにとっては親しみやすい相手ではありません。誰にも相談できない中で小さなうそがだんだんと手の付けられない様相を呈していくことに、読み手はアーマと一緒にドキドキ、ハラハラすることでしょう。でも、大丈夫! お話の名手である作者は最後に素敵な結末を用意してくれていますので、どうぞ安心して読み進めてください。

うそをつくことはもちろん良いことではありませんが、いろいろな出来事がおこる過程でアーマは大おばさんやディリンガムさんの思わぬ一面も発見したりと、少しずつ周りの人たちの理解を深めていきます。ジュディや兄のルーク、クラスの仲間ともこの騒動をきっかけに気持ちを通わせていきます。アーマはもう、友だちのいない転校生ではなくなりました。だからきっとこれからは、うそをつく必要はないはずです。(か)

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