クリーンヒット⚾ フィクション
『パパがしげみになった日』
ヨーケ・ファン・レーウェン 作
野坂悦子 訳
岡本よしろう 絵
ほるぷ出版 刊
2023年12月 発行
1540円(税込)
138ページ
対象:小学校高学年から

とつぜん戦争の起こる、不可解な世界をなんとか理解しようとする女の子の物語

小さい時にママが家を出て、お菓子職人のパパと一緒に暮らしているトダ。彼女の住む国の南の方で戦争が起こり、パパも兵隊になって戦場に行くことになりました。パパがカモフラージュとしてしげみに変装するのだと思い込んだトダは「敵もしげみに変装していたら、こっちとあっちをどうやって見分けるのか」を、真剣に考えます。やがてトダの住む町にも戦争が近づいて危険が迫り、彼女は大好きなおばあちゃんとも離れて、ショルダーバッグ1つでママのいる隣の国までバスで避難することになるのです。

トダは爆弾が落ちてくるような場所にいるわけではありません。けれど間違いなく平和な日常を破壊された“戦争”の只中にいます。具体的な場所や出来事をイメージさせる描写ではない分、逆に色々な理由で住み慣れた場所や自分の国を去らなければならない人々――それは戦争だけに限らないかもしれません――は、きっとこのような先の見えない不安と恐怖を抱えているのだろうと想像されます。とはいえ、物語はトダの視点で描かれるため、緊迫した状況の中にも時折笑ってしまいそうなおかしさも混じります。避難民を迎える町の人々の偽善や、秘かに国境を越えようとする人たちからお金を巻き上げる者、軍規違反で捜索されている心優しい元司令官など、極限の状態で出会う人たちの中にトダはいったい何を見たのでしょうか。なんとも不思議で奇妙な物語ですが、自分の力ではどうにもならない理不尽な出来事にも、できる限りの機転で立ち向かうトダの冒険を皆さんにも一緒に見守ってほしいと思います。(か)

作者ヨーケ・ファン・レーウェンさんからのメッセージ:「ふだんは知らない人たち、知らない物事のために、自分の脳と心の中にあるドアを、どうぞ開けておいてください。」

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