クリーンヒット⚾ フィクション
『箱舟に8時集合!』
ウルリヒ・フーブ 作
イョルク・ミューレ 絵
木本栄 訳
岩波書店 刊
2022年11月 発行
定価1650円(税込)
102ページ
対象:小学校中学年から

……で、神さまってどこにいるの?

見渡す限り雪と氷が広がる大地にペンギンの姿がありました。寄るとさわるとケンカばかりしているペンギンのもとに、ある時太った白いハトがやってきて「この地球全体が水に沈む」という神さまの言葉を伝えます。どの動物も2匹ずつだけ乗ることのできる箱舟へのチケットをもらったペンギンは、友だちのチビペンギンをこっそりスーツケースに入れて、箱舟に持ち込もうとしますが……。

有名な聖書の「ノアの箱舟」がこんなおかしな物語になって世界的に読まれているとは驚きです。登場人物の会話は丁々発止、まるで漫才を見ているようなテンポのよいおもしろさがありますが、気づくといつの間にか「神とは何か」といった哲学的な対話になっていたりと、真面目と不真面目が螺旋のように絡み合って読者を翻弄します(けむに巻くともいえる?)。
キリスト教が身近でない日本の子どもは、難しいところは読み飛ばしてドタバタ喜劇だけを楽しむのかもしれませんが、それも一つの読み方でしょう。表面的な楽しさの裏に実は深い意味があることは、大人になってから気づくかもしれませんし(気づかなければそれでもいい)、あるいは物語の中のセリフがふと心に残るならば、それはこの本が十分に読者に届いたといえます。書かれたものをどう受け取るかは読者次第。とにかく始めから終わりまでおかしくて笑いの止まらない、ハチャメチャなノアの箱舟のお話を存分にお楽しみください。(か)

「それにしても、なぜペンギンを箱舟にのせたんだね? ペンギンは泳げるじゃないか」

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