クリーンヒット⚾ フィクション
『行く手、はるかなれど ーグスタフ・ヴァーサ物語ー』
菱木晃子 著
徳間書店 刊
2024年1月 発行
1650円(税込)
176ページ
対象:中学生以上

「スウェーデン建国の父」グスタフ・ヴァーサの若き日に焦点をあてた歴史小説

1520年、隣国・デンマークの圧政に苦しんでいたスウェーデンは、独立を目指す者たちとデンマークとの同盟を維持しようとする者たちが激しく対立していた。独立派の有力貴族の息子グスタフは人質としてデンマークへ送られていたが、祖国の行く末を案じた彼は軟禁されていた城を抜け出して、妹夫婦の元へ帰還する。しかし「デンマーク王を信用してはならない」という彼の警告は間に合わず、父はデンマーク王クリスチャン2世をスウェーデンの王とする書類に署名をして、ストックホルムで催される即位式へ家族ともども向かってしまった。家族の無事を祈りつつ待つグスタフにもたらされたのは、父をはじめ即位式に参列した者たちが惨殺されたという知らせだった。クリスチャン2世から追われた孤立無援のグスタフは、愛する祖国を解放する使命を己に課し、かつてデンマーク軍と勇猛に戦ったダーラナ地方の人々を今一度立ち上がらせるために真冬の森を進む孤独で過酷な旅に挑む。

グスタフ・ヴァーサの名前を聞いて直ちに時代と人物をイメージできる人はそれほど多くないと思います。けれど、物語に一歩踏み込んでしまえばそんな心配は吹き飛んでしまうでしょう。一人の若者が強い信念を胸に幾多の困難を乗り越えていく姿は、時代を越えて読者の心を揺さぶります。不案内な読者のために時代背景や人物の説明が多くなされていますが、それらは登場人物のセリフや回想シーンの中にうまく組み込まれていて、教科書的な印象は受けません。展開は非常に緊迫感がありなおかつドラマチックで、また不必要に感傷的にならず抑制のきいた文章はかえって主人公の絶望や孤独をくっきりと見せる効果を生んでいます。何よりグスタフが辿る旅路の風景を読者の目前に鮮やかに見せてくれる描写の力は、作者がこの国の歴史・文化・自然をいかに深く理解しているかということに尽きると思います。150ページ強の作品ですが読みごたえのある歴史小説で、若い世代の読者にぜひ薦めたい1冊です。(か)

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