クリーンヒット ⚾ フィクション
『チキン半々 大根多めで』
キム ソヨン 作
下橋美和 訳
影書房 刊
2025年9月 発行
2090円(税込)
279ページ
対象:中学生以上

甘くて辛くて、少し苦くてしょっぱい韓国の〝おいしい〟物語。

文学をはじめ、料理、ドラマ、アイドルなど、韓国文化は日本でも大変な人気があります。観光などで韓国を訪れる日本人も多いのですが、1980年代後半に民主化されるまでの韓国の現代史を知る人は少ないかもしれません。本書は、歴史に学びつつ過去現在未来のつながりを模索し、多くの危機を克服してきた朝鮮半島の歴史をふりかえる作業をおこなっている1972年生まれの著者が、韓国現代史の中で誕生し、愛され続けてきた5つの食べ物をとおして、朝鮮戦争のころから1990年代まで、それぞれの時代のすがたを10年ごとに見つめてみたいと考えたことから生まれた短編集です。

1950年代、朝鮮戦争下、母親と二人で避難する途中の畑でヨンジンが見つけたサツマイモ。(「ふろしきに包んだサツマイモ」)
1960年代、朝鮮戦争休戦後の混乱期、生きるためにアメリカ軍の物資の横流しに手を染めた叔母と二人でナミが食べた国連湯(ユーエヌタン)。(ジュンコおばさんと国連湯)
1970年代、家族を支えるため縫製工場で毎日14時間働くソンジャが、理不尽な国の政策に抗って翻弄される家族と食べたインスタントラーメン。(もちラーメン)
1980年代、ソウル五輪開催直前、軍事政権の元で民主化を求める危険な活動をする大学生の叔父と両親の確執を目にする11歳のソンヒが連日通ったトッポッキの屋台。(ミンジュんとこのトッポッキ)
1990年代、裕福な高校3年生のチヌと、会社が倒産して父親がチキン屋をはじめたヒョンシクとの不思議な縁。(チキン半々 大根多めで!)

5つの物語の主人公は11~18歳、いわゆるティーンエージャーの子どもたちです。彼らを取り巻く大人たちの生きざまを通して、当時の韓国社会で庶民が直面していた困難と、それに立ち向かい必死に生き延びようとする人たちの逞しさが見えてきます。5編はいずれも貧しく抑圧された人たちの闘いの物語ですが、厳しい状況の中にも前向きなエネルギーが溢れているのは、その時々に彼らの胃袋と心を満たした素朴な食べ物の存在が核になっているためでしょう。
「ぼくたち、なんとかして暮らしていくんだ。ぼく、死にたくない」――第5話でチヌが発するこの言葉は、踏まれても何度でも立ち上がる人びとの強さの象徴として、読者の心を強く揺さぶります。(か)

※タイトルの「半々、大根多めで」は、韓国でフライドチキンを注文するときの定番フレーズだそうですよ。

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