
クリーンヒット ⚾ フィクション
『ヨコスカストーリー』
花形みつる 著
理論社 刊
2025年10月 発行
1650円(税込)
186ページ
対象:中学生から
自由に生きるためにちゃんと考える
1960年代から1970年代の横須賀の街を舞台にした物語。
著者は生まれも育ちも、そして今も横須賀在住とか。そのためか行ったことのない場所のはずなのに、行間からその空気感が漂ってくるというか、肌感覚で街のたたずまいを味わえる文章に魅了されました。
まずは序章、「1964年 よし子」のお話です。
その日、小学6年生のよし子が「あそこには行っちゃいけない」と大人たちに言われていたドブ板にいたのは、同級生の哲朗が学校を休んだためでした。欠席した子には、給食のパンやお知らせを届けに行くことになっていて、よし子はその役目を引き受けたのでした。
その哲朗ことテッちゃんは端正な顔立ちの『あいのこ』で、辛辣な言葉を放ち、ひときわ図抜けた存在感をまきちらしていました。そんなテッちゃんに秘密を知られて憂鬱だったよし子。でも、この後も何度かテッちゃんの家に行くはめになったよし子は、次第に彼の背景を知ることになっていきますーー。
その後メインの「1971年 光毅」のお話が語られます。よし子の弟の物語です。光毅は中学生になっています。
序章でも、少し弟のことについての描写はありますが、姉目線と本人目線では、そりゃ語られることは大いに違うわけです。しかも中学生ともなれば、です。
光毅は中学生になってはじめて、混血児とクラスメイトになりました。入学式でケイティを見たときのことは覚えていました。純粋に驚いたのです。つややかな暗褐色の肌。チリチリの黒髪。背が高く、顔が小さくて、手足が長いーー。黙っていてもケイティの噂は耳に入ってきました。けんかが強いとか。
そんなケイティになぜか、なつかれてしまった光毅は戸惑いつつもーー。
それぞれの友情がリアルに迫ってくる物語です。
うまく言えませんが「日本人ファースト」なんて言葉が飛び交う昨今だからこそ、多くの人に読んでほしいと強く思いました。
この物語に描かれているよなうなことが実際、たくさんあったんだろうなと感じます。たくさんのよし子や光毅、テッちゃん、ケイティがいたんだろうって。実在の彼らは、どうなったんだろうとも。
ラストの場面は心憎い描写です。とても印象的。涙腺がゆるんでしかたなかった。
登場人物がみな、魅力的でそれぞれに存在感を放っています。人物描写が実に巧みです。スピンオフ作品がいくつもできそうなかんじ。
200ページに満たない物語で、描き方は軽妙だけど、軽すぎない。バランスがよくとれている。
読み終えたあと、いろいろ考えさせられる1冊です。
横須賀の街に詳しい人は、より深く味わえるんじゃないかな、と思います。よし子や光毅たちが主人公ですが、「横須賀」の街が主人公とも言えるくらい、街にもスポットが当たっています。 (す)
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