ベスト👍 フィクション
『てつほうの鳴る浜』
森川成美 作
小学館 刊
2022年7月18日 発行
264ページ
定価1,430円(税込)
対象:小学校高学年から

「運を楽しめ」。その言葉に、少年が見たものはーー

時は文永7年(1270年)ーー。
武士になることを嫌って家を飛び出し、博多で商人になろうと船に忍び込んだ長種は、船員に見つかって殺されかけたところを父の友人で水軍の大将・竜玄に救われる。竜玄は自分の跡継ぎになる誘いを断った長種をおもしろがり、「運を楽しめ」と豪快に笑って、塩を商う家に案内する。
読書好きで計算が得意、血を見るのがめっぽう苦手な長種だが、ある日、主人の張英が賊に襲われ、とっさの判断で賊を射殺してしまう。あんなに嫌がっていた血を見る羽目になった挙句、戦いの腕を見込まれて張英の警護係に任命される。
張英が持つ硫黄を奪おうとさらなる敵が狙ってきて、長種や張英の運命はこれまでとは別の方向に動き出す……。

火薬の原料となる硫黄は鉄砲を作るのに欠かせないもの。長種や張英は抗いようのない戦に巻きこまれていくのだが、次々と起こる出来事と少年の運命を、気づけばすっかり手に汗握りながら追いかけている。
戦国時代を舞台としたファンタジーだが、武将好きの男の子に限らず女の子にもぜひ読んでもらいたい。この物語のよどみない流れは性別や年代、歴史好きかどうかを問わず読者を引き付ける力がある。

運には抗えない、できるのはそれを存分に楽しむことだと説く竜玄の教えは、長種が成長するにつれて彼自身の信念となっていく。清々しい青年になった長種を眩しい目で見つめてしまうのは、私だけではないはずだ。 (い)

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