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『ほんとうの多様性についての話をしよう』
サンドラ・ヘフェリン 著
旬報社 刊
2022年7月 発行
定価1760円(税込)
204 ページ
対象:高校生以上

外国人、LGBTQ、障害者……みんなが居心地のいい社会をつくるには?

最近のニュースでよく耳にする言葉の一つに“多様性”があります。でもその言葉の意味するところがよく分からず、ぼんやりと「何かいいもの」という印象で自分も使ってしまうことはないでしょうか。

この本の著者サンドラ・ヘフェリンさんは日本人の母とドイツ人の父を持つハーフで(この言葉にも色々と意見があるようです)、23歳までミュンヘンで暮らし、その後20年以上に渡り日本で暮らしています。日本にいればドイツ人、ドイツにいれば日本人と、どちらの国にもルーツを持つにもかかわらず自らの意識とは関係なく外側から定義されてきた経験をもとに、「ほんとうの多様性とは何か」を具体的に語っています。

私たちは人を見た目で判断しがちです。容姿が外国人風であれば、生まれ育ちが日本だとしても“外国人”と見られます。ヘフェリンさん自身もそういった決めつけに、これまで何度も複雑な思いを抱いてきたそうです。当事者が見ている風景は、日本人のマジョリティが考える多様性と大きな隔たりがあり、それが問題を生んでいることが「はじめに」からだけでもよくわかります。〇〇人や性別などで単純にくくらないことが大切なのです。

この本で気づかされたことはたくさんありますが、中でもハッとしたのは「多様性とはすべてを受け入れることではない」ということ。他国の文化や宗教などに敬意を払うことは重要ですが、暴力や性差別的慣習にははっきりとNOを突きつけるべきと著者はいいます。「表現の自由」を盾にしてヘイト発言をする人を許してはいけないのと同様に、自由と人権を大切にする国で暮らす以上受け入れられないことがあると示さなければなりません。「文化の違いを言い訳にしないで」という強い言葉に裏には、違いがあることを前提として誤解や衝突を恐れずに話し合って問題を解決していこうという、温かい呼びかけがあるように感じます。
一人一人を個として見ることの難しさと大切さを教えてくれる作品です。 (か)

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