ベスト👍 伝記
『シベリウス』(「音楽家の伝記 はじめに読む1冊」シリーズ)
ひのまどか 著
ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス 刊
2024年4月10日 発行
1760円(税込)
333ページ
対象:小学校高学年から

“国民的英雄”と称されるフィンランドを代表する作曲家シベリウスを描き出す

2019年に『ベートーヴェン』と『バッハ』の刊行を皮切りにスタートした「音楽家の伝記 はじめに読む1冊」シリーズは、本作をもって完結となりました。
以前、他社より出ていた本の復刊を主軸に描き下ろしも含め、全15巻。トリはシベリウスですが、ベートーヴェンやバッハと比較すると知名度はないかもしれません。でも、ぜひ読んで! といいたくなる人生を歩んだすごい人なのです。…言い方がずいぶん子どもっぽくて、すみません。
かく言うわたしも大して知らず、だいぶ前(検索してみたら20年以上前だった!)に好きなヴァイオリニストが芸大の卒演でプレイすると聞いて、公演に行く前にCDを買って予習して「かっこいい!」と思った程度(実際の公演もすばらしくサイコーでした!)。彼はそのときシベリウスの人生を解釈したうえで演奏していたのかのを知りたいなあ、今さらながら思います。聞く側のわたしも今、また聞けるなら受け取りかたが違うだろうな。音源はないから、妄想でしかないのですが。

さて、シベリウスです。彼は、少年時代ヴァイオリンに熱中しすぎて卒業試験に落第しました。反省して猛勉強した末、翌年はなんとか合格します。でも親族から「医学を学び、父親のような医者になりなさい」と言い渡されました。理学部に入学しますが、やむなく入った学部だったのですぐについていけなくなり、法学部に移籍します。それでも音楽の道をあきらめきれず、音楽院の選科でヴァイオリンを学ぶようになります。まもなく音楽一本で生きていく選択をし、政府の奨学金をうけベルリンとウィーンへ留学をしましたーー。

フィンランドという国の歴史的背景にも触れていて、世界史的なことがらをも知ることができます。そういう状況も踏まえての「フィンランドを代表する作曲家」の意味を深く感じました。シベリウスの人生が複雑すぎて(!)いちいちをここに書くことはできませんが(だからこそ、ぜひ読んでと言いたい)、ゼロから何かを生み出すことの喜びと苦しみを思います。

それから個人的にシベリウス本人より興味がわいたのが彼の妻、アイノの存在です。文字通り献身的に生涯を彼に尽くしたこの人なくして、シベリウスはフィンランドを代表する作曲家になりえなかったのではないか、と思うほど。並大抵の辛抱ではなかったはずです。たぶん子どもを読者対象にしているので、筆を抑えた部分もあるのでは? と穿ってしまう(笑)。いつか本格的なアイノについての読みものを読んでみたいものです。  (す)

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