ベスト👍 伝記
『チャンス  はてしない戦争をのがれて』
ユル・シュルヴィッツ 作
原田勝 訳
小学館 刊
2022年10月 発行
定価1760円(税込)
351ページ
対象:中学生以上

チャンス(偶然)が織りなす『おとうさんのちず』の物語

『よあけ』『あめのひ』『空とぶ船と世界一のばか』・・・
日本でもよく知られた多くの名作を世に送り出したユル・シュルビッツ。
私は彼の作品の中で『おとうさんのちず』が一番好きです。
この絵本を初めて読んだときに、シュルヴィッツの体験したことを
もっと知りたいと思っていましたが、まさにそんな本が出ました。
シュルヴィッツが自らの子ども時代を回想し、文章と絵で綴った自伝です。

ポーランド生まれのユダヤ人であった、ユル・シュルヴィッツは
4歳の時にドイツ軍の爆撃でワルシャワにあった自宅を失い、
両親とともにソ連(当時)に逃れます。
その後、ソ連各地を転々としますが、その旅は飢えと病と寒さと迫害の連続でした。
その中で、『おとうさんのちず』のエピソードも詳細に描かれます。

胸が痛くなるような出来事の連続ですが、この本が重く苦しい後味に
ならないのは、ひとえにシュルヴィッツが描く絵と文章のおおらかさからでしょう。
時にユーモラスに、人間の悲惨さとたくましさが描かれた自伝。

作品のタイトルとなった「チャンス=偶然」の意味をしみじみと噛みしめました。
(く)

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