ベスト👍 フィクション
『モノクロの街の夜明けに』
ルータ・セペティス 作
野沢佳織 訳
岩波書店 刊
2023年9月 発行
定価2750円(税込)
398ページ
対象:中学生から

1989年 ルーマニア。 僕はあの日から密告者になった・・・

チャウシャスク独裁政権の下、ルーマニアの人々は”闇”の中で息をひそめるように生きていた。
セクリターテと呼ばれる残忍な秘密警察の監視、電話の盗聴、そして市民同士の密告。

そんな時代の中、首都ブカレストに住む17歳のクリスティアンは同級生の女の子に淡い恋心を抱く
平凡な高校生として生活していた。あの日を迎えるまでは・・・。
1989年の民衆の手によるチャウシェスク政権崩壊の史実をベースに、セクリターテの陰謀によって
独裁政権の「密告者」となってしまった少年の葛藤と人間模様が克明に描かれていきます。

政権によって抑圧された人々の重く暗い息遣いや生活の困窮が、まるで同じ冷え切った室内に
いるかのように皮膚感覚で伝わります。ノンフィクションの物語を読んでいるような気持になるのは、
ひとえに作者ルータ・セペティスの綿密なリサーチによるものでしょう。

個人的なことで恐縮ですが、1989年のルーマニア政権崩壊以来、ずっと心に懸っている女性がいます。
1984年大学生時代の夏休み、2か月間リュックサック一つでヨーロッパを一人旅したときに
旅先で知り合ったルーマニア人の女の子と1週間ほど旅をしました。今考えれば、あの時代にヨーロッパを
自由に旅できたのは、きっと政権側に両親がいたからでしょう。政権崩壊後全く音信不通となってしまった
彼女がいったいその後どうしているのか・・。

私と同年代の者にとっては、この時代の物語は遠い歴史の彼方の、他人事の物語ではありません。
何も知らずバブリー時代の日本で、のほほんと生きている中、たくさんの「クリスティアン」がいて
そして自由を勝ち取るために命がけで戦った同い年の学生たちがいたこと。

この歴史が確かにあったことを、私たちの年代はもちろん、「遠い歴史の彼方」に感じる今の
若者たちにも読んでほしいと思います。

ともに、わたしたちは過去の暗いすみに光を当てることができます。
ともに、わたしたちは歴史に声を与えることができるのです。(作者あとがきより)

(く)

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