ベスト👍 ノンフィクション
『動物がくれる力 教育、福祉、そして人生』
大塚敦子 著
岩波書店 刊
2023年4月 発行
定価1166円(税込)
267ページ
対象:中学生以上

人と動物のポジティブなかかわりには、私たちの社会を変えるすばらしい可能性がある。

困難を抱えた人と、自然や動物の絆をテーマに執筆を続けてこられた著者の過去30年にわたる取材の集大成というべき1冊。学校、病院、刑務所など様々な現場に足を運び、時間をかけて多くの取り組みを丁寧に取材したからこそ感じ取れる静かな温かい思いが全編に満ちています。

日本で「アニマルセラピー」と呼ばれる様々な動物を介した活動は、正式には「動物介在介入」というもので、人間の福祉・健康・教育に動物を生かす活動全般を指します。これは人間のために動物を利用するというような一方的なものではなく、人と動物の双方に恩恵をもたらす関係が前提です。とはいえ本書を読んでいくと、人が困難に直面していればいるほど、動物たちからもらう力は大きいということがひしひしと伝わります。動物たちに備わっている“寄り添う力”が人を癒し、困難を克服しようという力を与えてくれる実例が、本書には数多く紹介されています。

・読書が苦手な子どもが、犬に読み聞かせをすることで読むことへの苦手意識を克服する
・虐待などの被害を受けた子ども(大人も)が証言をする際に、犬が寄り添い安心を与える
・刑務所に収容された人が盲導犬になる子犬を育てる、保護犬を訓練して新たな飼い主を見つける手助けをする など。

人は動物との関わりを通して自然に他者への関心を深め、失っていた人間への信頼感を少しずつ取り戻し、自分を取り巻く社会へ心を開くきっかけを得ていくーー動物はたとえその人が犯罪者であっても、重い病気であっても、自分に対して愛情を示してくれる相手には無条件の信頼で応えます。それが人に生きる力(生きなおす力)を与えてくれるのです。

身近に生きものと触れ合うことの恩恵はとても大きいと思います。それは自分が自然の中で生かされている存在であることを知って謙虚になることであり、また自分以外の存在について思いを寄せる経験にもなるからです。大塚さんはあとがきでこのように述べられています。猛暑の夏、この言葉は一人一人の心に強く響くのではないでしょうか。(か)

「人間が引き起こしている破壊を止められるのは、人間しかいません。そのためには、動物をはじめとする多種多様な生き物たちに関心を持ち、愛情を感じる人がもっともっと増えてほしいと心から思います。」

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