ベスト👍 ノンフィクション
『文学キョーダイ‼』
奈倉有里 逢坂冬馬 著
文藝春秋 刊
2023年9月 発行
1760円(税込)
252ページ
対象:高校生以上

現代文学の最前線に立つ姉弟が語り合う、この世界の影と光。

『夕暮れに夜明けの歌を』で第32回紫式部文学賞を、『アレクサンドル・ブローク 詩学と生涯』で第44回サントリー学芸賞を受賞されたロシア文学研究・翻訳者の奈倉有里さんと、デビュー作『同志少女よ、敵を撃て』で第11回アガサ・クリスティー賞と第19回本屋大賞をダブル受賞した逢坂冬馬さん。今注目の若手作家お二人が、子どもの頃のこと、作家という仕事について、今の社会について思うことなどをじっくりと語り合った、とても刺激的な対談集です。読みながらうなずくこと、考えさせられることが多くありました。

家族についての思い出からスタートした対談でまず感じたのは、その人を形作る根本的な価値観は家庭環境によって育まれる部分が大きいということ。姉弟のご両親が自身の生き方を通して子どもたちに示したものが、お二人の人生を決める指針になったといっても過言ではありません。社会通念上“普通”と思われる人生のレール(良い学校に行って良い会社に就職し、安定した生活を手に入れる)にはこだわらず、自分の好きなことを追い求める幸せを大切にする生き方は、自分とは何者なのかを考え続けるという意味で子どもにとっても決して楽な道ではないでしょう。子どもを信頼してその判断を尊重することと、放任して好き勝手にさせることとは違います。逢坂さんの言葉にあったご両親が自分たちに対して「文化的なケアをしてくれ」ていたということが、まさに大人の役割として必要なことではないかと感じました。

個人的に非常に興味深かったのは、第2章「作家という仕事」。ここではお二人がどのような過程で書く仕事に至ったのかを語っていて、文学の社会における役割から、作家の経済問題や大学の在り方、SNSの功罪などにまで話が縦横無尽に広がっていくおもしろさがありました。さらに「書くこと」から「読むこと」にも言及され、文学を読むこと(奈倉さん曰く「その時代の人や作者個人が言葉ひとつひとつに込めた意味を慎重に考えていくこと」)で、自分を取り巻く社会の状況を違った視点からとらえなおすことの重要性は、なるほど仰る通りだと思いました。読書好きな人には特に身に染みる事態として「生活に追われて本を読めなくなる」ことがあり、「本が読める時間と心の状態を確保し続け」ることは単に個人の生活スタイルの問題ではなく社会構造の問題だという指摘は非常に納得のいくものでした。

第3章「私と誰かが生きている、この世界について」では、2022年から続くロシアとウクライナの戦争についても触れ、戦争に至る社会を作る私たち一人一人の意識について警鐘を鳴らしています。書くこと、読むこと、自分の生きている社会に対して責任をもって発言と行動をすることは切り離すことのできない個人の営みであるという発言に深く首肯し、私も自分のできることをこの場所でやっていこうという気持ちを新たにしました。私を今回一番勇気づけてくれた奈倉有里さんの最後の素敵な言葉を皆さんにお届けします。(か)

「本を読むことによって、思考の可能性が開けていく。あらかじめ用意された回答なんかで満足していられないぞ、という思考回路ができてくる。それが読書の大きな楽しみのひとつなんです。」(247p)

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