ベスト👍 フィクション
『目で見ることばで話をさせて』
アン・クレア・レゾット 作
横山和江 訳
岩波書店 刊
2022年4月 発行
定価2310円(税込)
310ページ
対象:中学生以上

かつて だれもが手話で話したという実在の島を舞台にした 歴史フィクション

アメリカ合衆国東海岸に位置するボストンの南東部にあるマーサズ・ヴィンヤード島では、かつて聞こえる人も聞こえない人もみんなが手話を使って話をしていました。物語はこの島に暮らす11歳のろうの少女メアリーに起こった恐ろしい出来事が、本人による自伝という形で語られます。

メアリーは両親(父はろう者、母は聴者)と兄(聴者)の4人家族でしたが、兄が不慮の事故で亡くなって以来、母親との関係がぎくしゃくしていました。そんなある日、この島に若い研究者がやって来ます。彼はマーサズ・ヴィンヤード島にろう者が多いわけを探ろうとやってきて、土や水を採取したり、島民から聞き取りを行ったりしますが、ろう者に対する言動は非常に差別的でメアリーや島の人たちをいらだたせます。そしてついに事件が……。

「ろう者の受けた差別や迫害の歴史が、主人公メアリーを通して見えてくる」というのは、齋藤陽道さんの推薦帯の通りです。耳が聞こえないことは知能レベルとは関係ありませんが、正しい教育を受けられなければ物乞いになったり施設に入ったりせざるを得ず、それが更なる誤解を社会に与えました。マーサズ・ヴィンヤード島にはろう者が多かったため、手話は音声と同じく人々が互いに意思疎通を図るための言語として発展しましたが、それは島の外に出ればたちまち差別の対象となるものでしたし、またイギリスからやってきた白人移民は元からのこの島に住んでいたワンパノアグ族や自由黒人を差別していました。無知と偏見による差別はいつの時代、どの人々の心にも存在することを物語は私たちに教えてくれます。障害に対する正しい知識を持つことと未知の文化に対する敬意の念を持つこと――大切なメッセージを含んだ波乱万乗の、愛と冒険の物語です。(か)

※人々が手話や音声といったいろいろな言葉で話すため、文章の表記にも工夫が凝らされています。最初は少し読みにくく感じるかもしれませんが、そのことが単なる手の動きだけではない手話表現の豊かさを読む人に伝える、この作品の魅力ともなっています。

★ご注文はお電話、Fax、メールにて承ります★
売場直通電話 03-3563-0730
Fax 03-3561-7350
メール narnia@kyobunkwan.co.jp