ベスト👍 フィクション
『西の果ての白馬』
マイケル・モーパーゴ 作
ないとうふみこ 訳
徳間書店 刊
2023年3月 発行
定価1760円(税込)
200ページ
対象:小学校高学生から

妖精と魔法の力が残るイギリスの村をめぐる、珠玉の短編集

物語の舞台はイギリス南西部のコーンウォール地方。その半島の先にあるゼナー村の人々は妖精や魔法とともに暮らしていました。お話の名手モーパーゴが紡ぐ物語がまとう不思議でちょっぴり怖い雰囲気には、ジェイコブズが編集した昔話の名著『イギリスとアイルランドの昔話』(石井桃子編訳/福音館書店)を読んだ時と同じ心のざわめきを感じます。

岬の浜でタカラガイを拾うチェリーも(「巨人のネックレス」)、怪我をしたノッカーのおじさんを助けたアニーとアーサーの姉弟も(「西の果ての白馬」)、アザラシと泳いだウィリアムも(「アザラシと泳いだ少年」)、丘の上の一軒家に住む変わり者のミス・マーニーも(「ミス・マーニー」)、登場人物はみなこの土地に根づいた“善きものたち”の存在を信じ、大切にする人たちです。それはとりもなおさず、人間の世界だけではなく目に見えないものを含めた世界全体に敬意を払って生きる姿勢につながっています。第4話「ネコにミルク」の中で、不思議な小さい人たちの一人が言うセリフは、まさにそのことを私たちに伝えてくれているのです。

「ああ、なんと、なんと、何もわかっておらぬようじゃな、トーマス・バーリーよ。土地はだれのものでもない。おまえさんのものでも、わしらのものでもない。わしらはただ、生きているあいだこの土地を拝借しているだけなのだ。そしてまたつぎの者にひきわたすんじゃよ」(134p)

短編集は通常どこから読んでも構わないものですが、この本に限っては作者の言う通り最初から順番にゆっくりと読んでください。物語の最後にたどり着いたとき、読者の心を満たすのはきっと温かな満足感です。(か)

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