クリーンヒット🥎  フィクション
『オリバー・ツイスト(上・下)』
チャールズ・ディケンズ 作
山本史郎・斎藤兆史 訳
偕成社 刊 
2019年12月 発行
本体各2,500円+税
(上)425ページ (下)445ページ
対象:小学校高学年以上

19世紀ロンドンの影を描いたディケンズの傑作
イギリスのとある町の救貧院で生まれた男の子はオリバーと名付けられた。母親が亡くなり孤児となったオリバーは養育院(孤児院)に預けられるが、ひどい仕打ちに耐えかねて脱走。ロンドンで知らずにスリの仲間に加わるものの、持って生まれたまっすぐな心が彼を悪の道から守り、やがて本来の場所へと導いていくことになる――。

ディケンズの代表作として舞台や映画になっている本作ですが、特に現代の若い読者には読みにくいと感じる部分が多いかもしれません。主要な登場人物だけで30人近くおり、一見物語に関係のない人々の性格や行動が延々と述べられるところは、オリバーの運命が気になる読者にとっては非常にまどろっこしく思われます。主人公とはいえ、オリバーは群像劇の登場人物の一人にすぎないのです。
しかし一方で、個性あふれる多彩な人物が重層的に描かれることにより、19世紀ロンドンの下層社会とそこでたくましく生きる人々の姿が、読者の目の前にくっきりと浮かび上がってくることも事実です。ディケンズが描いた社会問題は決して過去の話ではないこと、また社会的地位や身分にかかわらず人間は善と悪の双方を身の内にもつ複雑な存在であることを、イギリスの文豪の傑作は私たちに教えてくれます。

訳文は読みやすく、ディケンズの文体になれてしまえば難しい話ではありません。子どもにはもちろん、『オリバー・ツイスト』初挑戦の大人にもオススメしたい完訳版です。 (か)