ベスト👍 フィクション
『ルーパートのいた夏』
ヒラリー・マッカイ 作
冨永星 訳
徳間書店 刊
2020年12月 発行
本体2000円+税
384ページ
対象:中学生以上

第一次世界大戦下のひたむきな青春を描く、英国の実力派作家渾身の物語

生まれて三日目に母親を亡くした少女・クラリーは、三歳年上の兄ピーターと子どもに無関心な父親との三人暮らしで、温かい家庭とは無縁だった。そんな中で、毎年夏にコーンウォールの祖父母の家で過ごす時間だけは、薄暗い子ども時代の中で光輝くような心躍る時だったのだ。そこには彼女を笑顔で迎えてくれる年上のいとこ、ルーパートがいたから――。
しかし、第1次世界大戦がはじまると、18歳のルーパートは家族の反対を押し切り大学へは進学せずに軍隊へ入隊して戦地フランスへと赴くことを決めてしまう。「クリスマスまでには終わる」という予想に反して戦争は長引き、悲惨な戦場で親友を失った彼の心は次第にむしばまれていき、ついには戦場で行方不明になってしまうのだった……。

第1次世界大戦は初めての国家総力戦として、戦争に直接参加した兵士だけではなく、銃後の人々もみな戦争協力をさせられました。若い男性の多くが戦場に駆り出された影響で労働力不足になったことが、女性の活躍の場を広げたという側面もあったそうです。この物語の中でも、ピーターの同級生の姉が看護師として生き生きと活躍するシーンが印象的に描かれます。
また、女性が高等教育を受けることも一般的ではなかった時代に「学びたい」という思いを貫き、周囲の支援も得ながら努力して大学へ進学するクラリーの姿は、同世代の少女たちに勇気を与えることでしょう。

戦争の時代といってもつらいことばかりではなく(もちろん、食べるものにも苦労するような状況ではありますが)、日々の暮らしの中には楽しいことも、喜びが感じられる瞬間もありました。不幸にも戦争時代に青春を過ごさなければならなかった若者たちですが、みなそれぞれが夢や希望を持って一生懸命に生きていたのだということが、物語全体を通して痛いほど伝わってきます。それは敵味方となったイギリスの若者も、ドイツの若者も同じだったはずです。声高に戦争反対を唱えるものではありませんが、「もし戦争がなかったら」とそれぞれの登場人物の人生を想像することは、私たちが次の戦争を回避する重要な視点になると思います。(か)

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