ベスト👍 フィクション
『かるいお姫さま』
ジョージ・マクドナルド 作
モーリス・センダック 絵
脇 明子 訳
岩波書店 刊
2020年11月 発行
本体1500円+税
126ページ
対象:小学校中学年以上

古色蒼然としていながら、同時に真新しいみずみずしさそのもののような、とても不思議な感じ

魔女の呪いで“重さ”を失くしてしまったお姫さま。すぐにフワフワと空中に浮かんだり、風にさらわれたりするだけではありません。体ばかりでなく精神まで軽くなってしまったことは、王さまとお妃さまを大変嘆かせました。
物事を深刻に受け止めることのできないお姫さまが誰彼となくあびせる笑いは、どこか足りない変なところがあったのです。そんなお姫さまの前に、完璧な結婚相手を見つけようと旅する王子が現れ、この魔法にかかったお姫さまにすっかり心を奪われてしまうのですが……。

冒頭のキャッチコピーは物語の中の1節で(79ページ)、まさにこの物語の神髄を伝えるような気がします。よくある昔話のような枠組みの中でユーモラスに、時に皮肉たっぷりに描かれるのは、人間というものの奥深さです。王さまとお妃さまの関係しかり、その2人が娘の軽さについて丁々発止言葉を投げ合う場面は、笑いながらもハッとさせられます。
お姫さまが失くしてしまった“重さ”とは何なのか――。子どもや大人、読み手一人ひとりで考えるものは異なるでしょう。しかし、画家のモーリス・センダックが「ヴィクトリア時代のもっとも偉大な書き手」と呼び、「いろんな層、いろんなレベルで、同時に語りかけてくる。」と評したマクドナルドの物語は、人生の経験を積んだ大人の読者にこそ様々な気付きを与えてくれるのです。

マクドナルドの世界観を美しく繊細なイラストで見事に描き出したセンダックの挿絵も秀逸。まさに“海を越え、時を超えた”奇跡の合作を、心ゆくまでお楽しみください。 (か)

◆同時刊行『金の鍵』もご一緒にどうぞ!

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