クリーンヒット⚾ ノンフィクション
『大切な人は今そこにいる ひびきあう賢治と東日本大震災』
千葉望 著
理論社 刊
2020年11月 発行
本体1300円+税
183ページ
対象:中学生から

大切な人を失うとはどういうことか?

2011年の東日本大震災の体験ではじめてリアルな身近な人の死を体験した著者。実家が寺ということでそれまでも普通の人より「死」は近くにあったそうですが、東日本大震災の体験はその比ではなかったようです。
本書ではまず最初に祖父の死や、母、父の死に接したとき、時間が経つにつれてどのように気持ちが変化していくのかを丁寧に綴っています。そこから「死」との距離感みたいなものが伝わってきました。
52歳で亡くなった母と、75歳で亡くなった父とではその「死」への想いが違ったそうですが、今ではどちらも懐かしく思い出し、そのことを幸いと言います。わたしはまだありがたいことに両親ともに健在ですが、なんとなくこの気持ちはわかるような気がしました。なんとなく、ですけれども……。

そこから著者が体験した東日本大震災のこと、この震災をきっかけに知り合った福島の知人とのこと、そして宮沢賢治への想いへと綴られていきます。
はじめのうちは正直「この本の着地点はどこだろう」と思いながら読み進めましたが、次第に自分にとっての「生と死」をぼんやりと考え始めていました。大事な人を失うことの意味を。一人の人間の死は、たとえどんな人であっても誰かにとってかけがえのない一人を失ってしまうことなのだということを実感しました。

読後感は不思議と爽やかで、心が平らかになった気がします。それは著者のやさしさのためかもしれません。静かな余韻を醸す1冊です。 (す)

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