クリーンヒット⚾ フィクション
『ぼくの弱虫をなおすには』
K.L.ゴーイング 作
久保 陽子 訳
早川世詩男 絵
徳間書店 刊
2021年7月 発行
定価1760円(税込)
256ページ
対象:小学校高学年から

「こわさを克服させてくれるのは愛」――それはいつも時代もかわらないもの

4年生のゲイブリエルは5年生になるのが怖くてたまりません。それは6年生にいじめっ子がいるから。修了式の日にも彼らにひどい目にあわされたゲイブリエルは「1年間いじめつづけられるくらいなら、絶対に5年生にはならない」と言い張ります。親友のフリータはそんなゲイブリエルに、こわいもの克服作戦を持ちかけました。夏休みの間、リストにあげたこわいもの一つひとつにいろいろな形で立ち向かっていくというフリータの提案をしぶしぶ飲み込んだゲイブリエルでしたが、果たして38もある「ぼくのこわいもの」リストを全部消し込むことができるのでしょうか。

物語の舞台は1976年のアメリカ・ジョージア州。白人の少年ゲイブリエルは、両親とトレーラーハウスに住んでいて、親友である黒人のフリータは、地域で尊敬される牧師を父に持ち一軒家に住む裕福な少女です。人種も家庭環境も異なる二人はかたいきずなで結ばれた親友同士ですが、周囲には黒人を差別したり、人種差別撤廃運動に批判的な考えや行動をとる人々もいます。物語は、大人から見るとちょっと滑稽に見えるほど怖いものだらけのゲイブリエルが、正反対の性格を持つフリータの行動力に引きずられるようにして、少しずつ変わっていく様子がユーモラスに描かれていきますが、その背景には当時の(そして今も続く)根深い黒人差別があることが見えてきます。しかし、ゲイブリエルが怖いものを克服する過程で知ったこと、それは読者にも爽やかな勇気を与えてくれます。

「「愛してくれる人がいれば、何もこわくない」 パパのその言葉を聞いた瞬間、ぼくは勇気がわいてきた。(中略)こわいと思わないようにがんばらなくちゃ、とずっと思ってきた。でも、そうじゃなかったんだ。ぼくに必要なのは、愛を信じること。そうすれば、自然と勇気がわいてくる。」

愛を信じる勇気があれば、その愛が勇気をくれる。すてきなメッセージが込められた作品です。(か)

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