ベスト👍 伝記
『音楽家の伝記 はじめに読む1冊 小泉文夫』
『音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バルトーク』
ひのまどか 著
ヤマハミュージックエンターテイメントホールディングス 刊
2022年4月10日 発行
定価各1760円(税込)
「小泉文夫」301ページ
「バルトーク」310ページ
対象:小学校高学年から

西洋音楽の伝統から脱却し、民族固有の音楽がもつ普遍性と魅力に目を向けた2人の音楽家の足跡

以前、他社から刊行されていた『バルトーク』は再刊、『小泉文夫』はこのたび新たに書き下ろされたものです。
今回どちらも初めて読みましたが、相変わらず著者の筆力を感じるものでした。
特に『小泉文夫』はシリーズ初となる日本人。そして作曲家ではない人物です。わたしは初めて小泉文夫の名前を知りました。一般的にはあまり知られていない人物と思われるのに、なぜ? と感じたのも事実。
しかし、読み進めていくうちにこの疑問はあっという間にとけていきました!

1927年、東京に生まれた小泉は27歳のとき、インド音楽に魅せられます。29歳で東京大学大学院修了後、インドの音楽学校へ留学しました。音楽学校の院長から自分の興味とは関係なしに、南インドを代表する楽器ヴィーナと音楽理論を学ぶことを命じられます。それは院長が2日間、寝ないで考えたものでした。院長の言うとおり、学びはじめた小泉は学んでいくうちに、インド音楽のもつ奥深さに気づきます。そこから彼の好奇心は留まることを知らず拡大していき、期限の決まった留学のあいだにさまざまな音楽を吸収しようと院長に無断で声楽や太鼓などの教室にもぐりこみました。そうこうしてインド音楽のみならず、世界の各地域の音楽に魅了させられていきました。その行動力には、ただただ目を丸くするばかりです。
現在の音楽教育にも、彼の業績の結果があるといいます。西洋音楽だけでなく、日本が音楽のわらべうた、雅楽、民謡などが紹介され、民族音楽も世界各国の音楽た楽器が鑑賞の対象になっている。世界の音楽にまんべんなく触れる機会があって、確実に子どもの音楽の世界は広がっているのです! 民族音楽研究のパイオニア、とても影響の大きな方だったのです。もっと知られていい人物だと思いました。この本がそのよいきっかけになればと思います。

また、バルトークの生涯も波乱万丈! エジソンが発明したフォノグラフ(蓄音機)を担いで、地方に伝わる音楽(歌)を記録していった様が描かれています。地方にある音楽が都会の音楽に埋もれてしまいそうになっていた過渡期。エジソンの発明の恩恵もあり「時代感」を強く感じました。
作曲家として、ピアニストとして、そして民族音楽家として時代の波に翻弄されながら、生き抜いたバルトーク。彼は二つの世界大戦を経験し、「わたしの真の理想は、地球上の各民族が歌を通して兄弟になることだ」と語っていたそうです。今もこの地球上に戦争が起こっているなか、バルトークは現状をどのように見るのだろうと思いました。バルトークの想いを少しでも広く知ることが、平和への一歩にもなりうるのではないでしょうか。

二人の音楽家は、民族の壁をこえて音楽でひとつになるという大きな希望をもっていたように思います。それは決して古くならない、普遍性のあるものです。よく「音楽は言葉の壁を乗り越える」といいますが、この2冊から強く感じたことでした。
印象的な文章のひとつに『小泉文夫』にあった以下を挙げます。
“バリ島で小泉が痛感したのは、経済力だけで国の力や人々の幸福度を判断するのは大きなまちがいで、豊かな文化こそが人を幸せにする、ということだった。島民の生活は、文明が発達した国から見ればまずしい。しかし父親の膝に座って、父親がたたくガムランに目をかがやかせている男の子の姿に、小泉は真の幸せを見た。”
……この文章にすべて凝縮されています! (す)

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