クリーンヒット⚾ フィクション
『13枚のピンぼけ写真』
キアラ・カルミナーティ 作
関口英子 訳
古山拓 絵
岩波書店 刊
2022年3月 発行
定価1870円(税込)
238ページ
対象:中学生から

戦争は、まるで飢えた野獣のようにわたしたちのあとをつけてきた。

1914年、北イタリアの小さな村から家族でオーストリアに出稼ぎに出ていた13歳のイオレ(イオランダ)。戦争が始まると一家は仕事を失い、故郷のマルティニャッコ村に帰らなければならなくなります。一家を追いかけるように戦争は故郷の村に迫り、やがて兄や父、村の男たちも戦争に駆り出されていきました。イオレは近隣のウーディネの町へ働きに出かけますが、そこでもオーストリア=ハンガリー軍による激しい空襲で多くの死者がでます。そして彼女の住むマルティニャッコ村には軍の司令部がおかれ、県全体が戦場となって移動も禁止されるなど戦争の足音がどんどんと近づいてくる中で、母が敵国オーストリアのスパイ容疑の密告を受け逮捕されてしまうのです。連れ去られる間際に母がイオレに託したメモには聞いたこともない遠い親戚という女性の名前が記されており、そのウーディネの町に住む謎に包まれた「アデーレおばさん」を訪ねたイオレと妹のマファルダは、初めて母方の祖母の存在を知るのでした……。

物語は約100年前、第1次世界大戦中の北イタリアが舞台ですが、イオレが体験し感じたことの多くは今起こっている戦争と共通しています。戦争とは兵士たちが戦う最前線だけにあるのではなく、銃後といわれる非戦闘員(女性・子ども・老人)のいる場所も確実に蝕んでいくのです。しかし、この物語は戦争の醜さ、恐ろしさだけを描いているのではありません。戦争が起こらなければ知ることはなかったかもしれない母親の秘密がイオレとマファルダ姉妹の旅を通して明らかになっていく過程は、家族の再生の物語としても十分に読みごたえがあります。戦争という極限状態の中でも、人間は様々な経験を通して賢く強く生きる道を選ぶことができると物語は教えてくれます。

言語学を学び、詩人としても活躍する著者の文章には、印象的なフレーズが度々登場します。特に戦争について書かれた部分は今読むと非常に心に迫ります。

「きっと、だれもが戦争とは無関係ではいられないのだろう。戦争は目の見えない野獣に似ていて、相手が軍服を着ているかどうかなんてお構いなしなのだから。」
だからこそ、戦争など起こしてはいけないのです。(か)

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