クリーンヒット⚾️ フィクション
『夏の体温』
瀬尾まいこ 著
双葉社 刊
2022年3月20日 発行
定価1,540円(税込)
178ページ
対象:中学生以上

心を許せる友がいるということーー

老若男女幅広い世代の読者に愛される作家・瀬尾まいこさんの1年ぶりの新作です。作品集となる本書には表題作のほか、「魅惑の極悪人ファイル」、光村図書出版の中学国語教科書に掲載の「花曇りの向こう」と3つの短編が収録されています。
それぞれの主人公は小学3年生の男の子、二十歳の女子大生、最後は中学に入学したての男の子。人とのつながりをテーマに主人公たちの心の機微を丁寧に描く技法は、瀬尾さん特有の優しさと思いやりに包まれています。

特に「夏の体温」は、血小板の減少を経過観察するために入院した「ぼく」こと「高倉瑛介」が低身長の検査で入院してきた同い年の「田波壮太」と過ごした3日間を瑛介の目線で追ったストーリーで、十分にもの言えない年代の子どもたちの繊細な内面をすくい取り、見事な物語に落とし込んでいます。
大人や読書に慣れた子どもでしたら難なく読める分量ですが、だからこそ瑛介の思いを一つひとつ噛みしめて読み進めたいと思える内容です。

恥ずかしながら“低身長”に対する知識が乏しかった私はいくつかの文献をあたり、低身長には遺伝や体質のほかにホルモンの分泌が要因として挙げられること、治療により改善する可能性もあることを知りました。にわか仕込みの情報ですがそれらを念頭に再読すると、検査に耐える壮太や入院が長引く瑛介が抱える鬱屈や他人への羨望、それでも懸命に未来を信じる力に生へのまばゆさを感じずにおれませんでした。

若い世代の読者が読めば、等身大の彼らの言動にさらに共鳴する部分が多くあるでしょう。子を持つ親であれば、作中に登場する親や祖母の子を思う心を追体験できるはずです。じっくり二度三度と読みたい作品です。 (い)

 

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