岩波少年文庫5月の新刊は動物行動学者の日高敏隆氏の『チョウはなぜ飛ぶか』です。少年文庫のピンクの背表紙(対象が小学生向け)に物語や詩でない作品が入るのはちょっと珍しいことです。それだけ編集部の思いも強い1冊なのかな、と想像しながら手に取りました。
「チョウはなぜ飛ぶか?」と聞かれてまずびっくり。そんなこと考えたこともないからです。「そういうものだ」と決めつけたり、知識として頭でわかっていることがすべてと思うようになったのはいつからだろうと、ふと自分のことを振り返りました。日高さんは簡単に結論を得ようとはせず、自分の感じた「なぜ?」を大切に追及し続けた方でした。寄り道も失敗もたくさんあったと思いますが、その過程の中で体感したものは単に知識として頭に入れたものとは異なる形で自分の中に定着し、さらなる「なぜ?」が生まれるきっかけともなるのです。
簡単に求める答えにたどり着けるように見える現代でも自分が本当に“腑に落ちる”ことができるには、対象に向き合って「なぜ」と考え続けるしかないのではないか――それは自然だけではなく、私たちの周りのあらゆることに言えることだと感じました。
★物語が苦手な人、生き物が好きな人はもちろん、虫も生きモノも好きじゃない人でも日高さんの「なぜ」の引力にひかれて思わず読み進めてしまうこと請け合いです!

『チョウはなぜ飛ぶか』日高敏隆 著/岩波少年文庫 760円+税
※表紙画と解説は『つちはんみょう』などの絵本作家・舘野鴻さんです。