bunko8gatunohikari
また今年も8月6日がやってきます。忘れてはならない記憶として、受け継いでいくべき原爆の惨禍――それを物語として描いた朽木祥さんの『八月の光』(2012年・偕成社刊)が、このたび小学館文庫に入りました。文庫化にあたって、新しい作品が2編加わり全部で5編となりました。
戦争を体験した世代がいよいよ少なくなり、直接その経験を聞く機会もなくなりつつある現在、私たちはどのようにして戦争の記憶を繋いでゆけばよいのでしょうか。物語というのはその一つの手段だと思います。朽木さんはあとがきの中で「ヒロシマを記憶するということは、未来に二度と同じ過ちを繰り返さないよう警戒することと同義でもあります。五つの小さな物語がわずかでも読者の皆さまの心に落ちて、ヒロシマを記憶して下さることを祈っています」と書かれています。私たちはその場に身を置くことはできないけれど、そうであったかもしれない人生を物語を通して体験し、想像することはできます。そうやって過去の・他人の傷みを少しでもこの身に引きつける努力が、今の私たちに求められているのではないかと感じます。

『八月の光・あとかた』朽木祥著/小学館文庫 540円+税