全国どこよりも早くナルニア国のみで先行発売されている『イワンの馬鹿』(アノニマ・スタジオ刊)は、ハンス・フィッシャーの挿絵も魅力的な美しい1冊です。編集者さんが「造本、装丁をふくめて、ページをめくり、本棚におさめ、繰り返し読んで記憶に残るような、読者それぞれにその時間を大事にしていただけたら嬉しいです」というこの本、すごく凝った作りなのです。表紙中央の悪魔の絵(写真の白いところ)の部分が別紙に印刷され、手貼りされているので、触ってみると確かに1枚乗っている! 電子図書は場所も取らず便利ではありますが、こうやって1冊ずつ丁寧に作られた実態のある本を触りながら読むことで、記憶にもしっかり残る読書ができると思うのは、私がアナログな人間だからでしょうか……(苦笑)

思わず読みふけるくろみみくん

外見のことばかり書いてしまいましたが、やはりトルストイの名作はただモノではありませんでした! 物語に託して語られるトルストイの理想の人間像は、当時も「馬鹿」と言われたでしょうが、今はますます少なくなっている気がします。読んでいると、イワンとその国の人々の馬鹿がつくほどの純朴さに打たれると同時に「自分はイワンになれない」という悲しい思いもこみ上げました。まるごとイワンにはなれなくても、イワンの兄たちや悪魔の姿を心に刻んで自分を戒めるよすがにしたいものです。とはいえ、寓意に満ちた文豪の傑作は軽やかなユーモアにもあふれ、フィッシャーの踊るような線画と合わせて読者に幸せな時間をもたらしてくれます。
コロナ禍の今だからこそ、多くの方に読んでほしい1冊です。

『イワンの馬鹿』レフ・トルストイ作/ハンス・フィッシャー絵/小宮由 訳/アノニマ・スタジオ 1600円+税

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