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『シリアで猫を救う』
アラー・アルジャリール with ダイアナ・ダーク 著
大塚 敦子 訳
講談社 刊
2020年10月 発行
本体1,700円+税
222ページ
対象:中学生以上

「アレッポのキャットマン」として知られるようになった ある男性の回想録

今世紀最大の人道危機といわれるシリア内戦、その中でもトルコとの国境に近い北部のアレッポは、政府軍と反体制派とそれぞれを支持する外国勢力が激しい戦闘を繰り広げ、町は降り注ぐ爆弾で瓦礫と化しました。多くの住民が戦火を逃れて町を追われ、後には逃げることのできない人々と、人々に飼われていた犬や猫などの小さな命が取り残されたのです。

著者のアラー・アルジャリールさんは家族と離れて1人アレッポに残り、救急車に仕立てた自らの車で負傷者の救助に奔走する傍ら、置き去りにされた猫たちを救う活動を黙々と行っていました。やがて彼の活動はSNSを通じて全世界に「アレッポのキャットマン」として知られるようになりました。

十分な医療体制もなく、人命を救うことすら大変な中で猫(ごとき)を助けるなんてと思う人もいるでしょう。けれど、動物たちこそ全く自らに咎なく人間が引き起こした戦争の被害を被る最大の犠牲者なのだということを忘れてはいけません。人と猫の命を救うことを自らの使命としているアラーさんは、およそ人間が目にする最大の悲惨を目撃しているように思います。それでもシリアで生きていくしかない弱いもの(人も猫も)のために懸命に活動を続ける姿からは、“人としてのあるべき姿”が見えるのです。

ニュース報道が少なくなり、現地の様子を知ることは難しくなっていますが、シリアではまだ戦争が続いていること、そこで必死に生きている人たちがいることを忘れない、そう強く感じさせる作品です。(か)

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