ベスト👍 ノンフィクション
『岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020』
若菜晃子 編著
岩波書店 刊
2021年3月発行
定価1100円(税込)
302ページ
対象:大人

70年間絶えることのなかった、岩波少年文庫という小さなともしび。

岩波少年文庫の歴史と魅力が詰まった宝箱のような1冊。大好きだった本にもう一度巡り合ったり、知らなかったステキな本に出会えるガイドブックでもあります。
少年文庫の歴史を装丁の年代ごとに追う第一章、作品ごとに異なる挿絵の魅力を紐解いた第三章、外国の作品を違和感なく読めるように尽力した翻訳者たちに焦点を当てた第四章など、一章ごとに少年文庫の魅力を差し出す構成と文章は、ご自身が少年文庫を限りなく愛する若菜さんならではのものです。巻末には創刊以来の総目録がついており、これは少年文庫ファンにはたまらなく心躍るリストではないでしょうか。

~岩波少年文庫について思うこと~
終戦から5年後の1950年のクリスマス、岩波書店から児童向けの叢書が誕生しました。これが、戦後日本の児童書界に大きな影響を与えることになる「岩波少年文庫」です。創刊に関わった石井桃子や吉野源三郎らが、未来を生きる子どもたちにどれほどの希望を託していたかは巻末の「発刊に際して」という文章に熱く記されていますが(現在は創刊50周年新版発足の言葉に代わっています)、それは裏を返せば悲惨な戦争を止めることのできなかった大人としての責任感と自省の上に成り立っていたのだと感じます。

子ども時代に世界の優れた文学に数多く触れることで、人々の心の中には自然と憧れや共感の心が育ちます。長い目で見ればその心が戦争を含めた人々の争いを回避する防波堤になるのではないでしょうか。
岩波少年文庫を立ち上げた当時の人々の心の中に「二度と戦争はしない」という思いがあったのは疑いがないことであり、その願いが形になったのが岩波少年文庫なのです。さまざまな時代の荒波を乗り越えて70年間途絶えることなく出版されてきたのは、どんな逆境にも耐えられるしっかりとした根があったからだと、初となる岩波少年文庫大全を読んで強く思いました。(か)

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