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『ライトニング・メアリ 竜を発掘した少女』
アンシア・シモンズ 作
布施由紀子 訳
カシワイ 絵
岩波書店 刊
2022年2月 刊行
定価2,090円(税込)
302ページ
対象:中学生から

科学者! わたしたちは秘密の科学者になるのだ!

赤ん坊の時雷に打たれたメアリは父親から“稲妻(ライトニング)・メアリ”と呼ばれていました。これは12歳で世界初のイクチオサウルスの化石を発見した少女、メアリ・アニングの物語です。

メアリの父親は貧しい家具職人で、家計の足しにするため家の近くの海岸の崖で化石採集を行っていました。メアリは2歳年上の兄ジョセフとともに、6歳ごろから父親についてライム・リージスの海岸で宝(=化石)探しの手伝いを始めます。そこは度々崖崩れが起こるような危険な場所でしたが、初めて父さんと2人でブラック・ベンへ行った日からメアリはこの不思議な石の魅力にとりつかれてしまいました。「お宝を見つけたかったら、好奇心を持たなくちゃならない」という父さんの言葉を胸にメアリは、母親の反対や周囲の奇異な視線をものともせず危険な崖に通い続けます。
まもなく10歳になるというある日、メアリは自分の後を付けている金髪の少年(ヘンリー)に気がつきます。化石採集に興味を持つ金持ちの息子ヘンリーは、メアリをことをこの分野の専門家として尊敬して「科学者」と呼び、二人の間には友情が育まれていきます。聖書の教えが唯一正しいと信じる人びとがまだ多くいた時代に、父さんやヘンリーはメアリの“真実を探求する心”を支える大きな存在でしたが、やがてヘンリーは王立陸軍士官学校へ入学するためこの地を去り、父親は嵐の夜の事故が原因で命を落としてしまうのでした……。

「かわいくなるより、強く賢くなりたい」「すてきな服とすてきな冒険のどちらかひとつを選べといわれたら、いつだって迷わず冒険を選ぶ」と考えるメアリは、良妻賢母という女性にあてはめられた当時の規範からは逸脱した存在だったに違いありません。物語は家が貧しく、日曜学校で読み書きを習っただけのメアリが独学を続け、やがて世紀の大発見をするまでをきびきびした一人称で描きます。
社会の矛盾や理不尽が時に苦しく読者の胸を締めつけ、憤りを感じることもありますが、どんなにつらい現実もまっすぐに見つめる勇気と、歯に衣着せぬ物言いで自分の生き方を貫くメアリに、徐々に共感と尊敬の念が沸き起こっていくことでしょう。公の業績としてメアリの名前が残ることはありませんでしたが、彼女のような人が世の中を少しずつ良い方向に変えていったことは間違いなく、運命に屈することなく挑戦しつづけたメアリの気概に、あきらめず歩み続けることの力を感じる物語です。(か)

 

《中学生以下の方にはこちらも2点もどうぞ!》
●絵本『きょうりゅうレディ さいしょの女性古生物学者 メアリー・アニング』リンダ・スキアース作/マルタ・アルバレス・ミゲンス絵/まえざわあきえ訳/出版ワークス 1980円(税込)
●フィクション(小学校高学年~)『海辺の宝もの』ヘレン・ブッシュ作/鳥見真生 訳/あすなろ書房1650円(税込)

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