ベスト👍 フィクション
『どんぐり喰い』
エルス・ペルフロム 作
野坂悦子 訳
福音館書店 刊
2021年11月 刊行
定価2,100円(税込)
344ページ
対象:中学生以上

ぼくたちは「あわれな連中」なんかじゃない!

1943年スペイン、アンダルシア地方。子だくさんの貧しい家庭に生まれた8歳の少年クロは、家族と両親を支えるために学校をやめて働きに出ることになります。「道端の少年」となったクロは、家畜(ブタ)の世話をしながら、薪集めや水汲みもし、さらには自ら考えた小さな商売をして少しでも家計の足しになるようにと小金を稼ぎます。食事は毎日トウモロコシのおかゆばかりで飢えは日常のこと、働くための自分の体以外なにも持たず、金持ちになるチャンスなどまったくありません。厳しい自然の中では生きることそのものが戦いのような毎日ですが、クロは両親や祖母、周りの大人たちの姿をしっかりと見つめながら、生きるための知恵と力を確実に身につけていきます。

「どんぐり喰い」とは、ブタの餌となるドングリを食べる貧しい人たちを憐れみさげすむ言葉です。けれどクロはそのような世間の偏見はものともしない強さを持っています。彼は学校での学問は続けられませんでしたが、仕事や社会とのかかわりを通して、自分の頭で考える本物の生きる力を得ていく8年間が、様々な事柄を通して淡々と描かれます。

内戦が終結したばかりの社会は非常に不安定で反対勢力への粛清も続き、命の危険はすぐ身近にあります。クロが直面している貧困は今の私たちと比べることができないほど深刻で、極端なほどの不条理の中で生きることを強いられているのです。けれども彼らは決して人生を諦めることをしません。その強さはどこからくるのか、貧しくても人としての尊厳を失わずに生きるために必要なことは何か――そんなことを読者に深く考えさせる作品です。(か)

 

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