ベスト👍 フィクション
『まぼろしの小さい犬』
フィリパ・ピアス 作
猪熊葉子 訳
岩波書店 刊
2020年1月 発行
本体760円+税
278ページ
対象:小学校高学年以上

目を閉じると見えてくる、ぼくだけの犬――
ロンドンに家族と暮らす少年ベンの夢は、犬を飼うこと。誕生日の朝、犬をくれる約束をしていたおじいさんから郵便が届きます。けれど、中から出てきたのは一枚の犬の絵でした。
すっかり失望したベンは、想像の犬を飼い始めます。ところが、それがある事件を引き起こしベンは想像の犬を飼うことをやめてしまい――。

欲するものを手にできない現実から、”見えないものを見る”という驚異の体験をする少年の心の葛藤と成長を描いた傑作です。
長らく絶版状態にありましたが、岩波少年文庫として小川洋子さんの解説を加えてよみがえりました。
目まぐるしく変化するベンの心はまっすぐで、やわらかで、それゆえに想像の世界に没頭する様は危うさをも感じさせます。ラストのシーンは子どもはもちろん、かつて子どもだった大人の胸にも刺さるでしょう。 (い)