ベスト👍 ノンフィクション
『すべてきみに宛てた手紙』
長田 弘 著
筑摩書房 刊
2022年4月10日 発行
定価792円(税込)
156ページ
対象:大人

詩人・長田弘から受け取る手紙

電子機器やコミュニケーションアプリの発達を理由に “手紙” を介したやり取りの機会が減って久しくなります。寝る間を惜しんで便箋に悩みや近況報告を書き連ねたり、早く返事が来ないかと朝に晩にポストをのぞいたりする習慣も今ではほとんどなくなりました。
時代とともに慣習にも変化が生じるのはやむを得ないと思いつつ、時間をかけてことばを推敲し手で書き起こすことの激減した今日日を寂しくも感じます。

詩人・長田弘さんは“手紙” という形でたくさんの「きみ」(つまりこの本を読むわたしたち一人ひとり)に向けて、ことばのあり方を問うています。それはどれもごく短い、柔らかで親しみのこもった文章です。
中でも深く胸に刺さった「手紙 4」と「手紙 23」をご紹介します。
「手紙 4」はわたしたちの語彙力の低下について書かれたもの。日本語の漢字から膨らむイメージの広がりがカタカナでしか言えないことばに阻害されているのではないかという語りに、己の心中を見透かされた思いがしました。「今日も意味のよく分かっていないカタカナのことば、使ったなあ……」と反省しきり。

後の「手紙 23」はその前に収録されている「手紙 22」からつづく “絵本” について。
教文館ナルニア国で「一家に一冊」として何をおいてもすすめる『ちいさいおうち』(岩波書店)について綴った「22」を受け、「23」では長田さん自身が「これだけは」と考える絵本10冊を取り上げているのですが、そのほとんどが『ちいさいおうち』同様にこの店がこれからも読み継いでほしいと願う大切な絵本ばかりなのです。みなさん、どの絵本だと思われますか?

“手紙”とは、自分の引き出しに持つことばの存在を確かめるもの。それはなかんずく、「わたし」の内面を見つめることでもあります。
そのことを認識させてくれたこの本の著者・長田弘という人にもう会えないことが、今さらながら悔やまれてなりません。 (い)

 

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