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『命のうた ぼくは路上で生きた十歳の戦争孤児』
竹内早希子 著/石井勉 絵
童心社 刊
2020年7月 発行
本体1400円+税
227ページ
対象:高学年以上

今だからこそ、耳を澄まさなければならないこと。

「戦争孤児」と聞いて、皆さんが思い浮かべるものはなんでしょう?
第二次大戦後、親を亡くし、路上で暮らしていた子どもたち。映画のワンシーンの風景のようにしか、正直私はイメージしていませんでした。
戦後、日本には12万人以上の戦争孤児がいたと言われています。
この本では、10歳の時に神戸で孤児となり、路上生活を送っていた山田清一郎さんの体験談が綴られています。埼玉県の秩父で34年間教員を勤め上げた清一郎さんは現在85歳。しかし、戦争孤児として路上で暮らしていた時代のことはなかなか語ることができなかったそうです。なぜ語ることができなかったのか?

誰も助けてくれない路上での孤児たちの生活が如何に過酷なものであったのか、そしてそんな孤児たちに、戦後の大人たちがどれほど差別的な扱いをし、侮蔑的な思いをもって「浮浪児」と呼んでいたのか…この本を読むまで、私は「戦争孤児」の1パーセントも(!)知ってはいなかったと思いました。
「大人たち」が起こした戦争によって突然、天涯孤独となり路上に放り出された挙句、「野良犬」「浮浪児」と差別される孤児たち。そして「普通の生活」に這い上がろうとする孤児たちを“足蹴”にする「大人たち」(=当時の社会)に、憤りを感じながら読みました。でも、これって75年前の過去の出来事か?ともふと思いました。
後書きに深く心に突き刺さる言葉がありました。
清一郎さんと同じ85歳で戦争孤児から、今はホームレスとして社会の援助も一切断って生きている“ナナシさん”という男性が著者に語った言葉です。
「おれは、国がどんなことをするのかっていうのだけは興味があって、そのへんに捨ててある携帯ラジオ拾って、ニュースはいつも聞いてる。新聞も捨ててあるの拾って読む。今の人はスマホとか、パソコンとかインターネットとか、自分でつくってるものに自分でふりまわされてて、こっけいに見えるね。こんな世の中がくるなんて想像もできなかったよ」
できるだけたくさんの人に、この本を通して、75年前の戦争孤児たちの声に耳を澄ませてほしいと思います。今の私たち「大人」に語り掛ける言葉がここにあります。     (く)

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