ベスト👍 ノンフィクション
『途上の旅』
若菜晃子 著
アノニマ・スタジオ 刊
2021年11月5日発行
定価1,760円(税込)
317ページ
対象:中学生から

非日常が映し出すもの

赤茶色の大地を砂埃を舞いあげて風が渡る。地平線の彼方にアカシアが1本立っている。足元からあの木まで途方もない距離があるはずなのに、驚くほどくっきりしたシルエットがサバンナの広漠さを物語っている。
その横に見たことのない大きな太陽が悠然と沈んでいく。刹那、世界は真っ赤に染まった。

『途上の旅』は編集者であり文筆家としても知られる若菜晃子さんが世界を旅する中で出会った景色や人々との触れ合いを綴った随筆集で、シリーズの3冊目として昨年11月に刊行された。
飾らない言葉は若菜さんの人柄そのままで、静謐な文章からは鋭い洞察力と感受性の高さを思わせる。言葉が通じなくても絵を描いたり(「バス停の似顔絵師」)、視線を交わしたり(「荷揚げのポーター」)することで言葉以上の交流をはかることができる。それらは生身の人間が応じてくれる人肌の温度があるからこそ得られる体験で、対面が叶うオンラインでもこうはなるまい。

特に私が好きな部分が「ケニアでゾウを見た話」だ。マサイマラ国立公園でサファリをしたことが書かれているのだが、野生のゾウを間近にして「ゾウだ!」を連発する若菜さんがとてもかわいらしい。これが、冒頭の私の追憶を呼び起こした。
旅に出られるということは暮らしの、あるいは生き方の豊かさの象徴でもあると感じるが、それにしてもなんと清々しい読後だろう。
くるくると地球儀を回して、次に旅する場所を挙げては夢想する。私もまた、自分の道の“途上”にいる。 (い)

 

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