ベスト👍 フィクション
『詩人になりたいわたしX』
エリザベス・アセヴェド 著
田中亜希子 訳
小学館 刊
2021年1月25日 発行
定価1,760円(税込)
424ページ
対象:中学生以上

ことばがかたどる“わたし”という存在

物語の主人公シオマラは、ドミニカ共和国出身の両親と双子の兄とともにニューヨークのハーレムに暮らす15歳の女の子。女好きと噂される父親とはめったに口をきくことがなく、何かにつけて娘に厳しく当たる母親との諍いを起こさずにいる方法は口数を減らすことだと考えています。
そんな彼女が唯一自分をさらけ出すことができるのが1冊のノート。本書は、シオマラがそのノートに書き綴った詩やことばを日記という形で表しています。

物語の中で大きな軸となっているのが、シオマラが抱く母親との極度な確執です。
信仰心の厚い母親がシオマラを理想の娘像に導くために取る言動はよもや狂気であり、そのいびつな愛情がシオマラのひとりの人間としての尊厳を損なっていることは疑いようがありません。
女性らしいふくよなか体形に成長するシオマラはそれが原因で男の子(大人も含め)から性的な目で見られますが、そんな時にも母親はシオマラに「そういう男とは口をきいてはいけない」と禁じて神に祈るよう諭すだけで、彼女の精神の本質的な支えとなりません。自分の体を小さくできたらどんなにいいかと傷心するシオマラの姿は同じ女性として耐え難い一方、母親に対するむなしさを個人的感傷としそれでも自分の自由をつかもうと奮闘する強さにはまぶしさを覚えます。
そんな日々で、シオマラはひとりのある男の子と近しくなります。そして学校の若き先生には詩の才能を見込まれポエトリー部に誘われます。さまざまな世界の入り口が授けられるシオマラから目が離せませんが、そこにはいつも母親の脅威が立ちはだかっていて……。

他者を認め受け入れるということ、そして内なる自分と対峙することの崇高さを10代という多感な時期の子どもならではの視点で鋭く描いた作品です。
詩を愛し、書くことで閉じ込めていた自分を解放することができたシオマラが「自分の言葉の力を信じられるようになって、まぶしいほどの光を得られた」と語るように、読者にはこの本こそがわたしたちの社会にさす薄明光線のように思われてなりません。(い)

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