『それでも希望は失わない!』

『それでも希望は失わない! 「国境なき医師団」いのちの現場へ』
中嶋優子 著
河出書房新社 刊
2026年3月 発行
1694円(税込)
204ページ
分類:ノンフィクション
対象:中学生から

人道援助の最前線と、今日からできる未来の変え方

著者は2009年から国境なき医師団に参加し、ナイジェリア、シリア、南スーダン、イエメン、イラク、ウクライナなど、15年間に9回、7つの国と地域に派遣されて医療活動を行いました。なぜ国境なき医師団のメンバーとなり、危険な現場に赴いているのか、その熱い思いを若い人たちに向けて語っているのが本書です。

「国境なき医師団(MSF)」と聞いて、そこで活動する人たちのことを皆さんはどのようにイメージされるでしょうか。自らの命も顧みず、危険な場所で負傷者の救護に当たる聖人のような人たち——そんな風に思ってはいないでしょうか。中嶋優子さんはこの本の中で自身の生い立ちについても語っていますが、「真面目でもなく、特別に優等生でもない、みなさんのクラスにも一人はいるような子だった」と振り返っています。父親の仕事の関係で11歳までアメリカで暮らしたため、英語には不自由しませんでしたので「英語を活かして役に立つことができれば」と考えていた高校2年生の時、テレビでMSFの活動を見て「これだ!」と思ったそうです。しかし、彼女は一直線にその目標に到達したわけではなく、実際にメンバーとなって活動し始めるまでにはそこから10年以上の年月がかかりました。中嶋さんは「人生何が幸いするかわからない、やりたいことにはチャレンジしておいたほうが後悔は少ない」と語っています。その極意は?
医師になるまで、医師になってから、そしてMSFのメンバーになった後の中嶋さんの活動を、ぜひ若い人たちに知ってほしい――同じ道を選ぶことはなくても、人生の先輩の言葉として心に響くことがたくさんあると思います。

私がとても印象に残ったのは、中嶋さんが自分が不自由なく英語が話せることについて、子どもの時に感じた気持ちを「自分の力で努力して得たものではないこの英語力は、幸運なんだということ。そして、その幸運はもらいっぱなしにすべきものじゃなく、必ず何かに活かすべきだというぼんやりとした気持ちが芽生えていました。」と振り返っていることです。自分が当たり前に享受していることが単なる幸運な偶然であることを自覚した結果が、その後の選択の根底にあったのではないかと思います。
努力ではどうにもならない不条理がこの世にはあります。でも立ち止まらず、諦めず、自分にできることを考えながら一歩ずつ進んでいくことで、そんな世界を少しずつでも変えることができるかもしれない。イスラエルによる無差別攻撃を受けたガザに入り、その極限を見てきた人の言葉に潜む「それでも希望は失わない!」覚悟を、ほんの一かけらでも受け取って何かをしたいと、読み終わった後にはきっと皆さんもそう感じると思います。(か)