『ハヤ号セイ川をいく』

『ハヤ号セイ川をいく』
フィリパ・ピアス 作
エドワード・アーディゾーニ 絵
原田勝 訳
岩波書店 刊
2026年3月 発行
1430円(税込)
452ページ
分類:フィクション
対象:小学校高学年から

謎めいた詩を手がかりにかくされた宝をさがす、少年たちのひと夏の冒険

リトル・バーリー村に暮らす11歳の少年デイヴィッド・モスは、夏休みのある日、家の裏を流れるセイ川にかかる桟橋に、前日の洪水で上流から流れ着いた古いカヌーを発見します。持ち主を探しにセイ川をカヌーで遡ったデイヴィッドは、上流のグレート・バーリー村のコドリング屋敷に住む年上の少年アダムに自分の父のものだったカヌーを盗んだと疑われてしいますが、誤解が解けた後、二人は共にカヌーの修復に取り組むことでだんだんと親しくなっていきました。アダムの両親はすでに亡くなり、彼は祖父と叔母とともに暮らしていますが、祖父の年金だけを頼りにする生活は厳しく、夏休みが終わればグレート・バーリー村を去ってバーミンガムのいとこの家に行かなければならないことになっていました。しかし、この地を離れたくないアダムは、ある計画を胸に秘めていました。実は村には「コドリング家には手に入れそこなった宝がある」という噂があり、アダムは屋敷とここでの生活を守るために、その宝を探し出そうとしていたのです。失われた宝の真相に興味を持ったデイヴィッドは、屋敷の壁にかかった肖像画から一族の先祖であるジョナサン・コドリングにまつわる奇妙な話を、アダムの叔母・ダイナから聞き、ジョナサンが宝の隠し場所を示したという短い詩の謎を解こうとアダムと一緒に奮闘します。折しも、二人はコドリング家の敷地を伺う怪しい夫婦をみかけ……。

一族に伝わる失われた財宝の秘密を追う過程で、デイヴィッドとアダムは村の人たちから話を聞き、土地の歴史を知っていきます。が、しかし謎は解けたかと思うと遠ざかり、なかなか財宝に手が届きません。屋敷が売りに出され、いよいよコドリング家がグレート・バーリー村を去らなければならなくなった時、最後まで諦めなかった二人はようやく隠された財宝の在り処に辿り着くことができたのでした。

川を渡る風や夏の日ざし、草いきれのムッとした匂い、月の冴え冴えとした光が感じられるピアスの自然の描写は見事で、読者も物語の中で二人と一緒に駆け回っているような心地がするでしょう。二人の冒険を取り巻く登場人物もみな個性的で魅力を放っています。章の冒頭にあるアーディゾーニの挿絵は少年たちの冒険を線で描きつくし、後ろ姿やうつむいた姿勢、櫂を操る様子からその時々の彼らの感情が伝わってきます。400ページ超の物語ですが、最後まで読者の興味をそらさない書きぶりはさすがフィリパ・ピアス! これがデビュー作とは驚きです。(か)