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子どもの本に関わる人でこれを読まない人は“もぐり”といわれる、児童文学研究のバイブルであり必読書のリリアン・H・スミスの『児童文学論』が、岩波現代文庫に入りました。ハードカバー版が品切れになったと聞いた時は岩波書店の正気を疑いましたが(笑)、こういう形で復活してきたことは何より喜ばしいことです。前の本は、手ごろとは言いがたい価格でしたからね…。
リリアン・H・スミスがこの本を著したのは1953年――そのときすでに彼女は「私たちの現代生活には、子どもと本とを、とかくひき離しがちにする、たくさんの要因がある。それだからこそ、できるかぎりの努力をつくして、子どもと本を結びつけることが、ますます願わしく、ますます必要となってくるのではないだろうか?」と書いています。そして何より、この本では子どもに手渡す本の「質」を見極めることの大切さを語っています。
著者が「楽しくて、実りゆたかで、限りない報いのある分野」と愛情を込めて語る児童文学は、子どもだけでなく大人にも同様の価値を持っていることを最近、猪熊葉子さんの『大人に贈る子どもの文学』を通して実感したばかりです。子どもたちに本物の読書の喜びを感じてほしいとを願う大人の方、そしてまだこの本(『児童文学論』)をお持ちでない方は、ぜひこの機会にお手元に備えましょう。

『児童文学論』リリアン・H・スミス著/石井桃子・瀬田貞二・渡辺茂男訳/岩波現代文庫 1340円+税
※現代文庫に入り、新たに解説を斎藤惇夫氏が書かれました。